第1章:堕ちてきたニューロフレーム

第2話:白い巨人

 ――時に統一歴125年。


 スペースコロニー国家「ゼノリス共和国」が地球連邦に宣戦を布告して10か月。

 空からの見えない脅威が、人々の日常を静かに蝕んでいた。


 サクレー高原の森に、2台の電動バイクが滑り込むようにして停車した。


 ケイとフランクは、バイクを森の入り口の茂みに隠すと、ヘルメットを脱いだ。


 途端に、鼻をつくオゾンと気化したロケット燃料の刺激臭が肺を満たし、パチパチと木々が燃える不吉な音が、静かな森に響き渡ってくる。


 煙が夕暮れの空を黒く染め、太陽の最後の光を不気味な赤色に変えていた。


 息を切らして森を抜けると、不意に視界が開けた。


 そこは、まるで巨大な神が大地を爪で抉ったかのような、生々しい傷跡だった。

 木々は円状に根こそぎなぎ倒され、赤黒い土がめくれ上がっている。


 その中心に、シャトルだったものの残骸が、天を呪う巨大な墓標のように突き刺さっていた。


 機体のあちこちから火花が散り、黒煙がゆらゆらと立ち上っている。

 静寂の中に、ねじれた金属がきしむ音が響く。

 それは、2人がニュース映像の向こう側でしか知らなかった、「戦争」という現実の断片だった。


 ケイは生存者を探そうと、躊躇なくシャトルの残骸へ向かう。

 だが、フランクはその場から一歩も動けずにいた。


「うわっ、煙が目にしみる! ……ヤバいって! 帰ろう、ケイ!」


 ケイが振り返らずに進むのを見て、フランクは泣きそうな声で後を追った。


「ああもう! 待てって!」


 ——その時だった。大破したシャトルの貨物室、その闇の奥で、何かが動いた。


 周囲の黒煙や炎とはあまりにも対照的な、穢れを知らない純白の巨人が、静かにその姿を現した。


「……な、なんだアレ!? 人型兵器……NFニューロフレームだ! ゼノリスがゲリラ戦で使ってるっていう……! でも、アングラサイトで見たどの機体とも違うぞ……!」


 フランクは初めて間近で見るその巨体に、恐怖と興奮が入り混じった表情で釘付けになっていた。


 白いボディに識別帯のような青いライン。

 肩から伸びる翼のようなものが特徴的だった。


 機体はほとんど無傷で、その左腕には、気を失っている栗色の髪の少女が、まるで大切な宝物のように抱えられていた。

 その神々しくも非現実的な光景に、

「人型兵器……ニューロフレーム……」

 ケイは呆然と呟き、目を奪われた。


 連邦軍の新型機か? いや、ニュースで見たどの機体とも違う。

 だがケイは、理屈ではなく魂で理解していた。

 目の前のこの白い巨人が、これから始まる戦いの趨勢を決める、重要な鍵になるのだと。

 心の奥深く、封印していたはずの何かが、目の前の機械と共鳴するかのように、鈍い疼きを訴えていた。


 ケイとフランクが駆け寄ると、純白のNFニューロフレームは、まるで祈るようにゆっくりと片膝をつくと、プシュー、という圧縮空気が抜ける音と共に、胸部装甲が静かに前方へとスライドし、コックピットの内部を露わにした。


 コックピットには、パイロットスーツに身を包んだ男がぐったりと座っている。

 スーツは煤で汚れ、額から流れた血が乾き始めていた。

 彼は重傷を負い、かろうじて息をしているようだった。


 男は、焦点の定まらない瞳でケイの顔を捉えると、何かを託すように最後の力を振り絞った。その声は、血の混じった、かすれた声だった。


「頼む……。この子と……。この機体を……。『イカロス』を……連邦軍……に……」


 その言葉を最後に、パイロットスーツの男は意識を失った。

 コックピットに、再び静寂が戻る。



 ***


 託された願いと、親友へ明かす重大な秘密。 若者はゲーマーとしての直感を信じ、禁断のコックピットへと足を踏み入れる。 「イメージ通りに動いてくれる」

 次回、『覚醒』。 その鼓動が、若者の運命を書き換える。




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