アイアン・ファントムズ【PV1000到達】

ミカイノ宙

第1部:空から堕ちた翼

プロローグ:運命の閃光

第1話:空から堕ちた翼

 その日、成層圏の外、絶対零度の虚空から、無音の光が放たれた。


 それは神の裁きのように絶対的で、地上からは誰も知覚することのできない、不可視の槍。

  大西洋上空を飛ぶ旅客機が、前触れもなく火球と化した。

 ヨーロッパの空を横切る貨物機が、翼をもがれて錐揉み状態に陥った。


 ユウキ・ケイの母、アオイの乗った旅客機もまた光に貫かれ、アオイは帰らぬ人となった――。


 ――9ヶ月後


 11月のパリ、サクレー郊外の道路は、夕暮れの冷たい空気に包まれていた。

 吹き付ける風が、2人の厚手のライディングジャケットに突き刺さる。


 ユウキ・ケイと、親友のフランクことフランクリン・F・シェパードは、講義を終えたその足で愛用の一輪型電動バイクにまたがり、エコール・ポリテクニークからの帰り道を走っていた。


 インバーターの微かな唸りと、タイヤが路面を噛む音だけが、静かな風景の中を滑っていく。


「――オーストリア戦線の後退を受け、連邦議会はスペースコロニー国家ゼノリスに対する追加制裁を発表。しかし、宇宙移民者スペーシアンからは反発の声が上がっており――」


 ヘルメットの通信機が拾うノイズ混じりのニュースが、ケイの意識の隅を鬱陶しくかすめていく。


「あーあ、とうとう休校だってさ。オーストリア戦線が崩壊寸前って、それもうパリも時間の問題ってことじゃないの? ヤだなあ……」


 ヘルメットの通信機から聞こえるフランクの声には、楽観しようとしながらも、隠しきれない不安が滲んでいた。


「ああ。教授たちもギリギリまで大学を開けておこうと粘ってたみたいだけど、流石にもう連邦軍からの勧告には逆らえなかったんだろう」


 ケイの答えも、どこか他人事のようだった。目の前の日常が薄氷の上にあるという現実から、無意識に目を逸らしていた。


「はぁ……これからどうなっちまうのかね、この世界は……。なあケイ、学校も休みになったことだし、明日からどうする?」


 フランクの問いに、ケイが何かを言いかけた、その時だった。


 突然、空が一瞬だけ、真昼のように白く輝いた。網膜に焼き付くほどの、無音の閃光。

 遅れて、炎の矢のように黒い煙をあげるシャトルが、堕ちていくのが見えた。


 突然の閃光に、2人は思わず急制動をかけた。


 ケイの愛機、一輪型電動バイク「モノ・クルーザー」が、内蔵ジャイロを唸らせてバランスを保ち、その太いタイヤでアスファルトを削る。

 慣性で身体が前につんのめりそうになるのを、姿勢制御システムが強引にねじ伏せ、機体は停止した。


「うわぁ……あれ、シャトルじゃねえか。撃ち落とされたのかよ……」


 隣でフランクが、どこか他人事のように、しかし憐れむような声を上げた。


「今の光、ゼノリスの攻撃衛星か!?」


 ケイは叫びながらも、自らの言葉の甘さに胸中で毒づいた。

 正気か? この空に安全などないことは、分かりきっているはずだろうに。


 だが、彼の思考はそこで焼き切れた。


 あの閃光を見た瞬間、ケイの全身の血が凍りついた。

 頭の奥深く、何重にも鎖で封じたはずの記憶の扉が、軋みを上げてこじ開けられる。


 ――フラッシュバック。


 無機質なニュース速報のテロップ。


『旅客シャトル、大西洋上で撃墜』

『ゼノリス共和国のテロ行為か』。


 黒煙を上げて燃え盛る残骸。その片隅に表示される乗客名簿と、あまりにも不釣り合いな、母の優しい笑顔の写真。


 あの日から一日たりとも忘れたことのない、怒りと無力感。


(あの時、母さんは救えなかった。でも、今度は――目の前にいる命なら、救えるかもしれない!)


 その衝動的な思いが、彼の心を灼いた。


 激しい動悸と息苦しさに襲われ、世界から音が消えていく。


「ちょっ、ケイ!? 大丈夫かよ! おい、しっかりしろって!」


 フランクが、バイクから降りて駆け寄ってくる。その声が、遠くに聞こえた。


「……いや」


 ケイは短く答え、滲む視界を振り払うように首を振った。大丈夫なわけがない。だが、今はそれどころじゃない。


「それより、フランク……行ってみよう。もしかしたら、生存者がいるかもしれない」


 衝動的に言葉が口をついていた。助けられる命があるかもしれない。

 そして、この異常事態の真相を確かめなければならない。何か、無視できない予感が、強く胸を打っていた。


「はぁ!? 行くの!? 正気かよ!?」


「ああ。危険なのは分かってる。でも……うまく言えないが、胸騒ぎがするんだ。呼ばれているような、行かなくちゃいけないっていう、確信に近い何かが」


「はぁぁぁ……。しょーがねぇーなぁ、もう。今度何かおごれよ」


 フランクも渋々同意した。


「分かった」


 ケイは右手のスロットルを捻り、愛機のモーターを唸らせた。

 甲高い駆動音が静かな夕暮れを引き裂き、景色が後ろへ飛ぶように加速していく。フランクもすぐさま後を追う。

 まるで2条の閃光のように、2台のバイクは夜の闇が迫るサクレー高原の森へと吸い込まれていった。




***


 常を切り裂く閃光。衝動に駆られ踏み入った森の奥で、少年は運命と邂逅する。 炎の中に佇む純白の機体、そして託される願い。

 次回、『白い巨人』。 その出会いは、偶然か、それとも必然か。



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