第2話 嘘とレアケースと凡ミス
危なかった‥
人を助けるために何か行動をする、と言うのは幼少期の頃からよくやっているがせいぜい物を探したり友人間でのトラブルの仲裁ぐらいでドラマの主人公の様な大規模な問題を解決したら人の命に関わる事は滅多になく、まだ数回程度しかない。
それにしても、あんなに執着心の強いナンパは初めて見た。
普段通りなら僕が仲裁をして、男が引いて終わり。だがあの男は引かなかった。一体何が彼をあそこまで動かすのだろうか?
そのせいでとんでもない嘘をつく羽目になってしまった。
僕自身は4星の魔術師なのに"9星の魔術師だ"なんて、大胆すぎる嘘を。
法律的に魔術師が自分の星級を偽るのはグレーゾーン、捕まりはしないが注意は免れない。それに、あのままあの場にいれば間違いなく警備員に話を聞かれ入学式に遅れてしまう。入学式から遅刻するのなんて、これから過ごす学園生活に支障をきたすし、教師陣からの評判も落ちる。そんな事はあってはならない。
小さい頃からの夢を叶えるにはこの学園の教師達との深い交流が必須だ。だからこそ教師に嫌われるような事は極力避けなければならないし、目を付けられた結果、周りに僕の秘密がバレるわけにはいかない。
桂木玲には1つ大きな秘密がある。
その秘密は家族や親友のルカしか知らなく、学園に出す書類にも書かずにずっと秘密にしている事。
「生まれ付き目が見えない。だが、エコローケーションと呼ばれる技術を世界的にみても非常に高い精度で持っている」
駅の出入り口に着きルカを待ち始め、約3分が過ぎた頃、後方から声が聞こえる。
「悪い、待たせたか?玲」
「大丈夫、こっちもさっき着いたところだよ」
その言葉にルカは疑問を覚える。
「さっき着いた?俺より1個前の電車に乗ったのにか?」
「うん。ちょっとトラブルがあってね‥それに思ったより人が多くてよく"観えなくて"ね‥マップは完全に覚えてたんだけど幾分情報量が多くて」
その言葉にルカは、少し笑いながら
「だから言ったら?お前の"ソレ"もこのレベルで人が多いと脳がバグるって」
「まさかこうなるとは思わなかったよ、自分の脳の情報処理能力には結構自信あったんだけどね」
「確かこの賭けの報酬はジュース一本だっけ?どれがいい?」
玲の問いかけにルカは、「じゃあこれで」とスマホの画面を向けてくる。そこには先日発売され、美味しいとsnsなどで話題の新商品だった。
「チョイスはなんでもいいけど‥これ、どこで売ってる‥と言うよりそもそもここら辺の店で入荷してるの?」
「これだから田舎者は‥いいか?ここは大都市アルネキア!売ってないわけないだろ!」
ルカは僕のことを田舎者だと言っているが、僕とルカの家は同じ区域であり小学校も同じ、つまり僕が田舎者ならルカも田舎者になるんだが‥と考えてはいるが口には出さない。それを指摘したとしても「だまらっしゃい!」と返されるのがオチだろう。
結局ジュースは入学式の後に買う事が決定し、僕とルカは学校に向かって歩き出すのだった。
ルカと雑談しつつ歩く事20分、ようやく学園の正門に着いた。
学園の正門は賑わっており、どこに眼を向けてもそこには人がおり中には親子で門まで来て写真を撮っている人もいる。
「玲?大丈夫か?」
人が多いことを心配したからだろう。ルカが少し優しい声で聞いてくる。確かに、ここは駅よりも人が多そうだ。
「問題ないよ。ルカ」
「それに、今は1人じゃないからね」
そう玲が返すとルカは微笑みながら「そっか」と短く返し門の中へと歩み出し、その後を追うように玲も歩き出す。
それから2人はクラスを確認するためにクラス表が貼られているところに移動する。
「まじか‥」
クラス表を観て、驚愕している玲。そんな玲に対してルカは
「だ、だから言ったら?ここは大都会アルネキアだってな」
言葉はそれっぽいことを言ってはいるが声が震えきっている。
「いや‥でもまさかねぇ‥クラス表が横に40mもあるとは‥」
「はぁっ!?40m!?これそんなに長ぇのかよ!?」
「僕の眼はそう認識しているよ。認めたくはないけど‥」
「俺、この中から玲と俺の分見つけれるかな?」
あまりにも長すぎるクラス表にルカが絶望しきった表情で嘆く。
「まぁ、頑張ってとしか僕は言いようがないけれどね‥流石にあんな小さな文字、全部観るのは僕では厳しいし‥」
2人が小声で話しながら近づいていると、玲がある違和感に気づく。
「あれ?よく観たらこれ、50音順になってる」
その言葉がよっぽど希望だったのだろう。ルカはさっきまでの絶望が嘘と言わんばかりの笑顔で表を見つめ「まじか!最高じゃん」と叫ぶ。
「じゃあルカ、これだと僕は大丈夫そうだからルカは自分のを見てきたら?」
玲の提案にルカは笑いながら「おう!また後でな!」と言いながら自分の名前がある方に走って行く。
それを観た玲は相変わらず元気だなと思いながら自分の名前、つまり桂木のか行を探しだす。
探し始めてから数秒後、玲は目的の名前を見つけ出す。
やっぱり玲って名前なら後ろから探す時に楽なんだよな。そして、クラスは‥ウーナ組だ。
ウーナ‥言葉の意味は分からないがきっと何かの言葉なのだろう。
そう玲は結論づけ、ルカの方へと向かう
「ルカ、クラスはどこだった?僕はウーナ組だったよ」
「奇遇だな、俺もウーナ組だ」
その返答に玲は喜びつつ言葉を返す
「良かったよ、今年もルカと一緒で」
「まあ、俺が居ないとお前は結構学園生活しんどいからな‥感謝したまえ!」
「感謝はしてるさ、僕が今まで秘密を隠し通せたのはルカのおかげだからね。アルネキアでもお世話になるよ」
「おうよ!任せとけ!」
周りに聞こえないように注意しつつ、2人は話していた。やがてウーナ組の教室に着き2人は自分の席に座り、玲は周りの人間を観つつ考える。
流石に席が近いって事はなかったか、まあ、同じクラスだっただけでも運が良かったのだから不満はないが。
そして20分程度の時間が経ち、1人の男性が教室に入ってくる。
「ようこそアルネキア国立魔術師専門育成学園へ!君達は選ばれし魔術師達だ!私の元で研鑽を積み、世界の為に役立てるような人物になりたまえ!」
周囲の生徒からクスクスと笑い声が聞こえる。確かに、大胆な言葉を使う人だ。教師なら「役立つ人馬になれ」ではなく「自分の将来の為に役立てろ」って言った方が自然‥と言うよりそれっぽさが有ると僕は思う。
自分の発言が生徒に好評で嬉しかったのだろう。教師の人は露骨に機嫌が良さそうだ。
「よし!では今から入学式の詳細を話そう」
男性教師の入学式についての説明が終わり、玲は入学式の会場の体育館へと向かっていた。
それにしてもあの教師、なぜか最後まで名前を言わなかったな‥何でだろう?
それに、最初は体育会系の人間かと思ったが近くでよく観るとどちらかと言えば文系、悪く言えば筋肉マッチョではなくスリムな体型をしていた。きっと生徒からの第一人称を「面白く、気さくな人間」にしたかったのだろう。
少し変わっているかもしれないが、きっといい人なんだろうな。名前を名乗っていないのは謎だが。
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