第4話 clap glass
青い空の下、青々と茂った芝生の上を一際、強い海風が吹き抜けました。会場に置かれたたくさんのガラス製品がその風を受けそれぞれ綺麗な音を出します。──まるで、私たちの始まりを告げているみたいに。
「行くぞ! clap! clap! 音を響かせ! 手を叩け! 小樽から日本へ海外へ! 私たちはclap glass!」
みんなの手を重ね、声を合わせて気合を入れると、マイクを握ってステージに立ちました。初めてのステージ、人は思った以上にたくさん。
集まってくださったみなさんの全てが観客というわけではありません。商店街のみなさんとの共同イベントなので、私たちはイベントの一部。ガラス製品を買いに来た人、キッチンカー目当てで来た人、たまたま運河に観光にきた人、いろんな人が集まり、私たちを見てくださる目は少ないです。
それでも、それでも──私たちの初ライブ。心を込めパフォーマンスしなければ。
すぐに曲がスタートしました。千紗さんの力強いラップのあとに
「……あっ!」
力みすぎたのかダンスを失敗した私は、そのまま機材へとぶつかり会場には「キーン」とかん高い金属音が。激しい音割れです。
曲は中断し、会場中はざわざわとし始めました。
「──か!」
千紗さんと海羽さんが駆け付けてくれました。ですが、私の耳はぐわんぐわんとうなっていて何も聞こえません。
ダメです。失敗しました。私たちの初ライブなのに──。
そのとき、会場から手を叩く音が聞こえました。音のする方を見ると、昨日落としたティッシュを拾ってくれた高校生くらいの男の子が恥ずかしながらも一生懸命手を叩いてくれています。
男の子だけじゃない。最初のclapに続くように一人また一人と手を叩く人が増えて、いつの間にか伝播するみたいにclapの音は会場中に広がっていきました。
「小雪」
千紗さんが私の体を起こしてくれました。傍らには海羽さんもいて、元気な笑顔で「大丈夫だよ!」と言ってくれます。
「見なよ。この景色。clap glass。私たちのユニット名みたいだ」
千紗さんの表現はぴったりでした。会場のみなさんの音とともに、反響するようにガラスの音が響きます。
その素敵な光景を目に焼き付けて、私は、千紗さんの腕から離れて一人でステージに立つと、何も考えずにマイクを握りました。
息を吸い込み、口を大きく開きます。
「みなさん、ありがとうございます! clap glass! もう一度! 私たちの歌を聞いてください!」
clap glass フクロウ @hukurou0223
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