第2話 海羽

 少し明るい髪に丸い顔がガラスに反射して映る。


 グラスに注がれたメロンソーダを勢いよくグルグルグル回していると、「海羽みうさん、はしたないです」と小雪ちゃんに怒られちゃった。


「いや〜氷の入ってるグラスとか見てるとかき混ぜたくなるよね〜」


「いや、ならないだろ。氷が溶けて味も薄くなるし」


 と、うっす〜い反応している千紗ちゃんは、大学生らしくブラックのアイスコーヒーを飲んでいる。小雪ちゃんはガムシロとミルクをたっぷり入れて。私はそもそもコーヒーが飲めないから、マスターにお願いしてメロンソーダにしてもらった。


「さて、前日にしてなんとかティッシュは全部はけたが……あとはライブに向けた特訓だな!」


「特訓か〜明日のリハ楽しみだな〜」


「バカ、私達にリハーサルなんてないぞ」


「えっ? ウソ! だって、よくライブ会場でリハやってるじゃん!」


「そんな余裕も時間もない! ぶっつけ本番一発勝負だ!」


「うぇ〜そんなぁ〜」


 楽しみにしてたのに。リハってアイドルっぽいじゃん?


「ってかぶっつけ本番って!? ヤバいじゃん! 練習しないと!」


 メロンソーダをブクブクしていたストローから口を離すと、小雪ちゃんは苦笑い、そして千紗ちゃんはあきれた顔をしていた。



 練習が始まる。苦手なんだ、一番年下の私が一番歌もダンスも下手。レッスン場を提供してくれたダンススクールの鏡に写る私は、2人についていけなくて情けない顔をしていた。


「もっと腕をまっすぐ!」「笑顔だ!」「声が上擦ってる!」


 コーチも兼任している千紗ちゃんの声が飛ぶ。言われている通りにやっているはずなのに──。


「終了!」


 尻もちをつくみたいに床にへたり込んでしまった。小雪ちゃんが私の分のドリンクを持ってきてくれるけど、力が入らなくてフタが上手く開けられない。


 はぁ……苦しい……苦しい……苦しい。アイドルってもっと、もっと楽しいと思ってた。こんなのツラいことばっかりだよ。


「海羽」


 でも、こんな苦しい顔、みんなには見せたくない。いつもの元気な笑顔で。


「ん〜なぁに?」


「終わりだ。門限だろ?」


 門限。高校に上がったばかりの私は親から門限を決められていた。アイドル活動も、門限までに帰らないといけない。


 だけど。


「ヤダ!」


「わがまま言うな。そういう約束でやってるんだ」


「だって! 明日なんだよ! 私たちの初ライブ!」


 それなのに全然! 歌もダンスもできてない! こんなんじゃ、こんなんじゃ!!


「わかった」


「え?」


「今、親御さんに相談してみる。泣くほど悔しがってますってね」


「なに? 私、泣いてなんて……ない……」


 鏡を見れば大粒の涙をこぼしている自分がいた。小雪ちゃんがフタを開けて、ドリンクを手渡してくれる。


「きっと、大丈夫です。一緒に頑張りましょう。海羽さん」


「うん……うん、ありがとう」

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