第9話 最後の来訪
秋が終わり、冬の寒さが訪れたある日だった。おじいちゃんの家の外を吹き抜ける風が、枯れ枝を震わせる音が私の耳に響く。父さんと二人で、ずっと連絡が取れないおじいちゃんの家に向かっていた。
「おじいちゃん、ずっと連絡取れないから心配だよ……」
私の声が震える。父さんも険しい表情で、「親父、何ヶ月も音沙汰ないんだぞ。どうなってるんだ?」と強めの声を出すけど、家の中からの返事はない。
板で打ち付けられた窓、隙間なく目張りされたドア。異様な光景に、私と父さんは顔を見合わせ、不安が胸を締めつけた。
インターホンを押しても反応はない。電気も通っていないみたいだった。父さんがドアを叩き、「親父! いるなら返事しろ!」と叫ぶが、虚しく響くだけ。
鍵を開けようとしても、内側から固定されていてびくともしない。「どうしよう……」と私が呟くと、父さんが「窓からだ」と言い切った。
父さんは窓に打ち付けられた板を工具でこじ開ける。軋む音とともに、板が外れ、暗い家の中がのぞいた。私は息を呑み、父さんとともに這うようにして窓から入る。
家の中には異臭が立ち込め、冷たい空気が肺を刺した。父さんが「ミナ、車に戻れ」と低い声で言ったけれど、私は首を振った。
「私も分かってるよ。もう子供じゃないから」
覚悟を決めて、父さんを見つめる。父さんは渋々うなずいた。
スマホの明かりを頼りに、私たちは家の中を進んだ。板で塞がれた廊下、埃と闇に沈んだ居間。そして、四畳半のドアの前——そこで、座り込んだまま事切れているおじいちゃんを見つけた。
膝を抱え、ドアにもたれた姿。冬の寒さが腐敗を抑え、何とか形を保ったまま、そこにいた。
私は息を呑み、スマホが手から滑り落ちそうになる。
「おじいちゃん……」声が掠れる。父さんが「親父……」と呟き、膝をついた。
閉ざされたセカイの中で、おじいちゃんは最後までおばあちゃんの大切なものを守り続けた——そうして、ひとり静かに終わっていた。
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