妖精がみえる山

星空 花菜女

妖精がみえる山

「みんな――がんばって。あとちょっとだよ――」と10歳くらいの男の子が

後ろから歩いてくる人に声をかけながら、険しい山道を一歩づつ慎重に進んだ。


 学校の遠足の山登りなら、こんな危険な場所は選ばない。登ってきたのは

全員子供。大人はいない。たぶん親には内緒だろう。


「ついたぞ~」


 男の子が辺りをきょろきょろと見渡す。一面にたくさんの綺麗な花が咲き、キラキラと輝く青い蝶がたくさん飛んでいた。

 

「ふぅ―。やっとついたぁ」


「もうつかれた。帰りちゃんと帰れるかな」


「うわぁ!きれい!」


「あのちょうちょ、見たことない」


「なんかおなかすいた」


最初についた男の子が人数を数え始めた。


「1、2、3、4、5、よし、全員そろったね」


 最近この山で妖精を見た人がいると、子供たちの中で噂が広まり、親に内緒でクラスの仲良し6人組が登ってきた。妖精はどこにいるのかな?それぞれ思い思いに探し始めた。

木の根元やお花畑の中、落ち葉の中、空を見上げて「妖精さ~んでておいで~」と呼んでみたり……


いろいろな場所を30分くらい探したが、妖精の姿はなかった。


「なんだよ、噂はうそだったのかな?」


「いないね~」


「そろそろ帰らないと……」


 期待していた子供たちは時間がたつにつれて、笑顔が消えて不安げな表情に。

でも最初に到着した男の子は、最後まで一生懸命探していた。

しかし、みんなが探すのをやめたのであきらめた。と、

その時男の子が急に「うわぁ~~~~」とおおきな声をあげてその場にしゃがみこんだ。


 周りにいた子供たちは驚いてそばへ駆け寄った。そして心配そうな表情を浮かべながら男の子にやさしく近づいた。


「だいじょうぶ?」


「どうしたの?」


「痛いの?ケガしたの?」


男の子は、両手で顔をおさえながらこわごわとした声で言った。


「助けて、なにもみえないよ。真っ暗。目が……目が……」と泣きながら言った。


 周りの子は驚いた。急に目がみえないといわれても。どうしたらいいのかわからず、ポケットからハンカチをだして貸してあげる子。

一緒にしゃがんで目をのぞき込む子。でも治りそうな感じがしない。とにかくはやく帰らないと。男の子の両脇に5人の中で体が大きい2人の子供が、それぞれ腕組をするようにして支えあい、3人で並んで一歩づつゆっくりと歩いて山を下りた。


 もうすぐ日が暮れる。空がオレンジ色になってきたころ、やっと男の子の家についた。玄関のインターホンを鳴らすとの、帰りが遅くて心配していた両親が慌ててでてきた。そしてみんなが妖精がみえる山に登って、男の子の身に起きたことを伝えた。両親は驚いたが、たぶん他の子どもたちの親も心配していると思い、それぞれの家までお父さんが車で送り届けた。


 その間に、男の子はお母さんと一緒に近くの病院へ行き、症状をみてもらった。

男の子は目が見えないと言っているが、不思議なことに眼球は傷もついていないし、光を当てても異常がなく何の問題もない。それなのに男の子の視界は真っ暗。診察したお医者さんも困り果てた。


 翌日、男の子は学校を休んだ。昨日、一緒に山に登った子供たちがお見舞いに来てくれたが、男の子の目は見えないままだった。その次の日も休んで、そのまた次の日も学校を休んだ……そして1ヶ月が過ぎた。

3回病院を変えて、様々な検査を受けているが原因は不明のままだった。


 目によさそうな食べ物を進められ食べたり、○○水という山のお水がいいと聞き、遠くまで汲みに行き、飲んだりそれで目や顔を洗ってみたり、できることはなんでも試していた。


「どうして自分だけこんな事になってしまったんだろう。もう一生、目が見えないのかな……」


 毎日同じことを考えていた。ただ妖精に会いたいだけだったのに、両親に内緒で山に登ったからバチが当たったのかな。そして悲しい気持ちになりいつも泣いていた。


「妖精なんて本当はいないんだろ」


 いつしか男の子は、妖精はいないと思うようになった。

そんなある日、夢を見た。



――― 辺り一面に綺麗な花が咲き、キラキラと輝く青い蝶が飛んでいる。

あ。ここはあの山?

するとどこからともなく鈴を転がすようなかわいい声が聞こえた。


「わたしたちが妖精だよ。君には見えないかな?」


男の子は驚いた。目の前にいたのは青い蝶。


「え?蝶が妖精なの?妖精ってもっと羽の生えた人間みたいな感じじゃないの?」


羽をフワフワと動かすたびに、キラキラと光りながら青い蝶が言った。


「こころの底から信じている人には姿が見えるんだよ。でもこの前きた、君たち6人は半信半疑だったから青い蝶にみえたんだよ。」


「そうなんだ。本当にいるんだね。本当の君の姿が見てみたいよ。あ、でもぼくはもう目がみえないから無理だね」


また悲しくなって泣いていたら


「いつも君のそばにいるよ」と妖精が言った。


「え?どこにいるの?教えて!」目が覚めた ―――




「なんだ夢か……でも不思議な夢だったな」


 みんながお見舞いにきてくれた時、夢の話した。しかしもう誰も妖精の存在を信じていなかった。あの山でみた青い蝶は、ただの蝶だったと……


 でも男の子は、あの夢で会った青い蝶が妖精だったと信じた。もう一度あの山に登ってみたくなった。


 けれど目が見えないので、山どころか家の中さえも一人では歩くことができない。

そこで両親に勇気を出して夢の話をした。そして、あの山に登りたいと一生懸命お願いをした。少し困った顔をした両親だったが、お母さんが病院に電話をして先生に相談をしてくれた。しばらく真剣な表情で話をしていた。なんと許可がでた。大喜びの男の子。目がみえなくなって泣いてばかりだったので、喜ぶ姿をみて両親も笑顔になった。


 次の週の日曜日。男の子と両親は、肩を組んで並んで一歩ずつゆっくりとあの山を登った。そして花がたくさん咲いている場所についた。


「うわぁこんなにきれいな場所があったなんて知らなかった」と驚くお父さん。


「本当にきれいね~。」と景色を眺めうっとりするお母さん。


しかし男の子には見えなかった。しばらく周りの空気のにおいや、音がしないか確認した。そして男の子は両親へ聞いた。


「青くてキラキラ光ってる蝶は飛んでるかな?」


両親は辺りを見回すが姿がなかった。そのことを伝えると


「いや、いるんだよ。お父さんとお母さんは妖精を信じていないから見えないんだよ」


 そういうと男の子は、その場にしゃがみ込み、心の底から強い気持ちで(妖精はいる。妖精はいる……)と何度も何度も唱え続けた。


 すると1ヶ月以上真っ暗だった壁のような目の前が、ところどころ針の穴ほどの小さなと隙間が点々と空きはじめ、そこから目の奥にまばゆい光がレーザー光線のように差し込んできた。


「うわぁ~ひ、ひ、ひかりがぁ~」


あまりのまぶしさに光が、光が、と悲鳴のような声をあげる男の子。


 両親は驚き、男の子の体を押さえながら必死に落ち着かせようと声をかけた。

するとさっきまでいなかったはずの青い蝶が1頭、2頭と男の子の周りを飛び始めた。

そして数が増えていくたびに男の子の視界が少しずつ広がっていく。


「目がみえるようになってきた!」


 いったいどうして?両親が男の子の両目を、見てみると目の表面あたりに、くろっぽい膜のようなものがあり、その膜の小さな穴から、青い蝶がどんどん飛び出してきているではないか。


 驚いて腰が抜けそうになる両親。次から次へと男の子の目から青い蝶が飛び立つ。何百頭?3人は数えきれないほどの青い蝶に埋め尽くされ、辺り一面青くなりキラキラと輝いていた。


「ほんとうに、ずっとぼくのそばにいたんだね」と男の子が心の中でつぶやいた。


 すると1頭の青い蝶が男の子の肩にとまり、かわいい妖精の姿になった。

はじめて見る妖精に喜ぶ男の子。両親にも妖精をみせてあげたいと思ったが

なぜかふたりはすやすやと眠っていた。


「目をみえなくさせるつもりはなかったの。ごめんね。」と言って妖精は事情を話し始めた。

「昔から妖精は、純粋な子供のそばで一緒に暮らしていたんだけど、最近は子供でも妖精を信じてくれない子が増えてきて、妖精たちは信じてくれる子供を必死に探しているんだよ。でもなかなか子供に会えないから考えた。子供たちに同じ夢をみせて、この山に妖精がでる噂があると思い込ませて、ここまできてもらったんだ。ただ君たち6人の中で、心の底から妖精を信じてをいたのは1人だけだった。本当は子供ひとりにひとりの妖精(1対1)なんだけど、仕方なく妖精たちは、全員君の目の前についた。普段姿を見えなくしている時の、ひとりの妖精の大きさは1ミリにも満たない。だから目の前にいても見えないんだけど、何百もの妖精が君についてしまったから、目の前を真っ暗にしてしまったの。ほんとうにごめんなさい」


男の子は納得した。そうだったんだ。だから急に真っ暗になったのか。それと信じていない大人には見えないから、お医者さんはぼくの目を治すことができなかったんだ。少し考えて妖精に質問した。


「もしかして……ほかにもぼくのような子供がいるのかな?」


「うん。残念だけど、たくさんいるよ。君のように目が見えなくなったりそれ以外の原因不明の病気と言われたり……」


男の子は驚いたけど、治してあげる方法はないの?と聞くと


「簡単だよ。世界中の子供が妖精を信じてくれたら原因不明の病気はなくなるよ。

それと最近子供の数が減ってるから、これからたくさん増やしてくれたらも、人間界と妖精界はずっとずっと幸せに暮らせるよ」そう言って肩にいた妖精はパタパタと光の中へ消えていった。






20年後。

あの男の子は立派な大人になった。職業は小児科のお医者さん。

今日もこの病院には世界中から原因不明の不治の病を抱えた子供たちがきている。

彼は大人になっても妖精の事を信じているので、ほかのお医者さんには見えない原因(妖精)と話をするだけで簡単に治してしまう。

 


おしまい









































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妖精がみえる山 星空 花菜女 @20250317

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