第5話

「誰と食べたいかは俺の勝手、ってそれなんか私と食べたいって言ってるみたいだよ」



老若男女問わず、みんなこうやって一瞬で陥落させられてるんだろうなあ。




この天然タラシめ。



うりうりと肘でつつくと、面倒臭そうに柴倉が私の肘を掴んで離す。




決して突き放すことのないその態度に、私は眉尻を下げた。




柴倉は、優しい。


結局のところ、私はその優しさにしがみついてるだけなんだ。

今も、昔も。



そこまで考えて、私は一度強く目を閉じて、開く。





昔のことはもう、なんだっていい。

私はこれからの自分を、変えていく。


過去のものには、全部蓋をしよう。






「・・・だからそう言ってるじゃねえかよ」



「ん?ごめん、なんて」


「もういい」




考え事に夢中になって、あまり聞き取れなかった。

柴倉ももう一度言い直す気はないようだったから、私も追求しない。




ここには柴倉以外、私を知っている人はいない。

一から全部やり直せる。


だからこそ、私は新しい友達を作らねば。




なぜか深くため息を吐く柴倉を余所に、私は決意を新たに、固く握りこぶしを作った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る