最終話 新しい友だち
「加藤さん、察しているかもしれませんが冴島さんは、記憶喪失です。」
医者は清正にそう告げた後にこう続けた。
「言語能力がしっかり機能していることから、おそらく部分的な記憶のみが消えているようです。」
清正はそれを聴いた途端嫌な予感が脳によぎった。
「先生、一つ質問いいですか?」
「はい、何でしょうか?」
清正は一呼吸おいた後に
「秀國は、あいつの両親のことについて覚えていましたか?」
と、聞いた。医者は
「おそらく、覚えているでしょう。親御さんについて訪ねたときに返答に詰まっていた上に、あの傷はつい最近ついたものではなかったので。」
医者はそう言ってその場を去った。清正は医者の配慮で、気が済むまで秀國のそばに居て良いと許可をもらった。
医者曰く、一応後数日で退院できると言われてるため呼吸器を外している。
「秀國、どこまで覚えてる?」
清正は秀國に問いかける。
「中学校入学時ぐらいでしょうか。それ以降の記憶が霞がかったような感じで、思い出せないんです。」
秀國は丁寧に答えた。秀國の目は、清正と出会った頃の儚い目をしている。この世の全てに関心の無い悲しい目。それを見て清正は、責任を感じた。あの時、嘘でもいいから「犯人は自分じゃない」といえば結果は変わっただろうか、いや、変わらない。秀國への隠し事が増えるだけだ。
そんな自問自答を脳内で繰り返す清正に、秀國が話しかけた。
「加藤さん、でしたっけ?」
「あぁ、そうだ。俺は加藤清正だ。」
清正はわざとらしくフルネームで答えた。
「では、清正さん。もし退院したら、あなたの家に泊めてください。」
と、秀國が言った。清正は首を縦に振り、答えた。その時、秀國は少しだけ笑った。
数日が経ち、秀國は退院した。清正は秀國を連れて、秀國の家に帰った。
「ここが俺達の家だ。」
清正は秀國の手を引いて家に上がった。家の中はきれいに掃除されており、まるで誰も住んでいない新居のようだった。
「綺麗な家ですね。まるで新居みたいですよ。」
秀國はそう言いながら入院時使っていた荷物を置こうとした。しかし、清正がそれを制止した。
「洗濯しないといけないから俺が持っておくよ。」
そう言って秀國の荷物を持った。
「喉乾いてない?水出すから待っててね。」
清正はそう言って秀國をテーブルに着かせた。
清正は、秀國に水を出すと、秀國の荷物を洗濯するために洗面所へ行った。
秀國は水を一口飲むと急に意識が朦朧とし始めた。そして清正が駆け寄ってきて
「大丈夫?眠たいなら寝室に行く?」
と、心配しているような声で秀國に囁いた。秀國は頷いて着いていくしかできなかった。清正は秀國を寝かせた。
翌日、秀國は目を覚ますと同時に、足首に違和感があった。秀國が布団をめくり足首を見ると、鎖で繋がれていた。秀國が驚いていると、清正が寝室に入ってきた。
「秀國、起きた?」
清正は笑顔で話しかける。
「あの、これは?」
秀國は足首の枷を見ながら、清正に問いかける。
「え?もう二度と逃さないためだよ。」
清正は狂気を孕んだ笑顔で続ける。
「秀國は覚えてないかもしれないけど、僕のせいで秀國はこうなっちゃったんだ。だからさ、もう二度と、離さないようにこうやって居たいんだ。」
清正はそう言って秀國の脚に頬ずりをする。
「改めてよろしくね、秀國♡」
大切な友達 ジャイキンマン @jaikinman
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