第九話 お別れの時間
「ま、待って秀國!」
清正は秀國の服の袖を掴んで引き留めようとしたが、秀國はそれを振り払った。
「もう着いてこないでくれよ。」
秀國は冷たく軽蔑するような声でそう言い放ち、走って玄関に向かった。
秀國を追いかけて清正も走るが、一足先に秀國は家の外に出た。
「待って!秀國!」
清正の制止を聞かず、道路に走り出た。
その時、プップー!とクラクションが鳴り響いた。秀國がクラクションの鳴る方を見て、止まろうとしたが時すでに遅し、秀國は車に轢かれた。
「秀國!」
清正は急いで秀國に駆け寄った。
秀國は頭部から出血しており、足も折れていたが微かに呼吸はしていた。
「おい!大丈夫か?!」
車の運転手が降りてきて、二人に駆け寄った。
「すまねぇ、俺がもっと注意して運転しておけば。」
嘆き悲しむ運転手に清正は
「先に救急車をお願いします。今ならまだ助かりますから。」
と、救急車を呼ばせた。
数分後、救急車が無事に到着して秀國は病院に運ばれていった。清正も付き添いで行ったので、運転手がどうなったかは知らない。
病院に運ばれた秀國はなんとか一命を取り留めたそうだが、数週間経っても起きる気配がなかった。罪悪感と心配が清正の心のなかで混ざり合い、もうすでに疲弊していた。それでも清正は毎日欠かさずにお見舞いに行った。
「秀國、元気?」
清正はそんな意味のない声掛けを毎日繰り返している。そして聞こえるはずのない秀國に対して、面会時間いっぱいに話しかけている。その日にあった出来事、秀國との思い出話、清正はそんな話を無駄だとわかっていてしている。
清正はいつも通り、学校帰りに秀國が入院している病院に訪れた。そして、待ち望んだ主観が眼前に広がっていた。
秀國が起き上がっていた。まだ点滴や呼吸器は外れていないが、清正にとってこれほどの幸福はなかった。
「秀、國、よかった、ほんとによかった。」
清正は泣きながら秀國に近づいた。そして秀國が口を開く。
「すみません、どなたですか?」
清正は耳を疑い、聞き直した。
「秀國、今、なんて?」
「ですから、どなたですか?」
清正の目には秀國が嘘をついているようには見えない分、余計に疑問に思った。その時、秀國の容態を確認しに医者が部屋に入ってきた。
「加藤さん、来ていたんですね。冴島さんの容態を確認したいので、少し良いですか?」
医者は清正を部屋の隅に座らせた。医者は数分の問答をした後に聴診器で胸の音を聞いた。それらが終わった後、清正に近づいて
「加藤さん、少し病してううの外へ来てください。」
医者に促され、清正は医者と共に病室の外へ出た。
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