第八話 本心
「それじゃぁ、全部清正が。」
秀國は弱く、細い声で呟いた。
「信じられないかもしれないが、俺含め全員買収された奴らだ。」
長政は後悔した。秀國にとって清正は大切な存在だ。それを理解しているからこそ後悔したのだろう。
「お前が辛いのはわかるが、現実と向き合え。そうでもしないと、本当の清正を知らずに過ごしていくことになるぞ。」
長政はそう言いつつも秀國が顔を上げるまで近くにいた。
それから少しして、秀國は顔を上げた。
「それじゃ、俺はもう帰る。清正としっかり話し合えよ。」
「わかりました。きょうは、ありがとうございました。」
秀國は長政を見送った後、家に帰った。
秀國は昼食を食べ終えた後、ずっと寝室で窓を眺めながら過ごしている。
(清正、なんであんなことをしたんだよ。俺のことが、本当は嫌いなんじゃないか?本当のお前は何なんだよ。)
そんな事を考えながら時間だけが過ぎていく。寝室の時計の秒針の音だけが、部屋の中で響いている。
時計が午後八時を指した時、玄関が開く音がした。
「ただいま〜。ごめん、遅くなっちゃって。」
清正の声が聞こえた秀國は、寝室から出てきた。
「あ、寝てたの?起こしちゃってごめん。夕飯できるの少し遅くなりそうだからもう少し寝てていいよ。」
清正はエプロンを付けながら秀國に話しかけた。表情を見る余裕がないのか、秀國の目を見ていない。秀國が口を開いた。
「清正。」
「どうしたの?」
食器棚から食器を取り出しながら清正は答える。
「お前が、俺をいじめるように手招きしたって、本当か?」
清正は体が止まり、冷や汗が吹き出してきた。バレるような心当たりが無かった清正は、必死に頭を動かしている。
「おい、頼む。嘘だと言ってくれよ、な?」
秀國は返答をしない清正に焦りを覚えて、返答を急かしている。
「本当だよ。」
食器を起きながら、清正は口を開いた。
「嘘なんかじゃない。秀國の言っていることは間違いじゃないよ。」
清正はようやっと秀國の顔を見た。
秀國の顔は何度も泣いた跡があり、秀國が学校を辞める直前の時期のような顔だった。
「俺は、本当に秀國のことが大好きだ。だから、独り占めしたくなった。秀國の全てを俺だけのものにしたくなった。」
清正は本心を吐露した。嘘偽りない言葉だった。
「なら、なんでその言葉を伝えずにあんな手段を取ったんだよ。」
重く苦しく、怒りをはらんだ声で秀國が清正に問いかけた。
「それは、その。」
清正は黙り込んでしまった。清正は他に手段はいくらでもあったのに、大した理由もなくこの手段を選択したのは紛れもない事実であり、何も言えなかった。
「そうか、今ので分かったよ。もうここにいても意味がないって。」
秀國はそう言うと玄関に向かって行った。
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