第17話 遂行

 僕がしなければならないことが自然と口から出た。


後継者ぼくを、ここに……攫ってくること……」


 ポケットからカードを数枚取り出す。手に握られていた数枚のカードは見たこともない組み合わせだった。


 僕が元いた世界についてはそこまで細かくわかっているわけじゃない。でもガウーベルにいる間に少しだけ情報は得ている。多分、飛び移ることは可能だ。


 それに、ここはファーヴィス。最善の答えは自然と浮かんでくる世界だ。

 僕の元いた世界について考えれば、きっと何かが得られるはず。そう期待するうちに、手が勝手にカードの配置を決めていた。あの異世界案内所のカウンターでずっとやってきた答えを導き出す力が役に立つ。


「……よし」


 失敗すれば厄介なことになるけれど。それでもサイリィに会える可能性があるなら、僕は止まれない。


 ぱらぱらとカードが舞う音を聞きながら、一瞬だけサイリィを見て、世界を旅立った。








ーーーーー




「……あ」


 次に気がついたときには、細い夜道に立ち尽くしていた。近くに聞こえる電車の音を聞き、鼻を刺激するほどの冷たい空気を吸ってようやく確信を得る。当方もないほどの時間が経ってから訪れたはずなのに、身体や心がここを覚えていた。間違いなく僕が生まれ落ちた世界だ。


 思い出せばここの季節は冬で、暗い道にまばらに人影が見えるだけだった。ここまで寒ければ出かけようとは思わないだろう。ほぼ快晴が続き過ごしやすいファーヴィスとはかなり差がある。


「そうそう、それで部長がさぁ……」

「…………」


 電話をしているサラリーマンとすれ違い、久々に聞いた言葉の発音ににやけそうになる。ファーヴィスに行った瞬間から言葉は通じていて、いつの間にか馴染み、すっかりファーヴィスの発音が染み付いているようだった。今聞けば違いも使い分けもできることに気がつく。


「……っ」


 ここまできて自分の目的を思い出した。この世界にいる僕を探さないと。いつまでも懐かしんではいられない。

 もう随分と前のことなのに、状況は不思議と頭に蘇っていた。僕は仕事帰り、運動不足を解消しようとしてウォーキングをしていた。散歩ルートも覚えている。

 見覚えのある道を歩きながらきょろきょろと見渡していると、ある人物に視線が吸い寄せられた。

 ちょっと猫背で聴いている曲に乗っているのか、歩くには少しだけ早いペースで歩みを進めている、今の僕よりも小さな男。



「……!」




 ——あの時の僕だ。




 僕はフードを深く被り、道に迷うふりをしてぼくにゆっくりと近づいた。

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