最終章 僕の役目
第16話 僕のやるべきこと
「……どう、して」
僕は異世界を渡れる技を習得し、再建されたファービスの二万年後の世界に渡った。しかし異世界案内所に立っていたのは僕ではなくサイリィだった。ここにサイリィがいるはずない。それは僕が一番よく知っている。この手で確かに彼を埋葬したんだ。それも崩壊前のファーヴィスで。
「ああ〜……」
珍しく暇な日のようだ。誰も近寄らないカウンターの向こう側で彼は退屈そうに頬杖をついている。何度見ても間違いない。……彼はサイリィだ。
「どうしよ……」
「どーしたんだい、珍しい」
そこに向かいの施設の物資係の男が近寄ってきた。柱に身を隠したまま、僕は二人の様子を伺う。
「深刻な後継者問題だよ。ボクももう長くないから」
「ああ、そりゃ大変」
物資係の男はさぞつまんなそうにそう返してすぐに戻って行った。サイリィはそれを見つめながらまたため息をつく。
後継者問題。サイリィをずっと悩ませていた問題で、元のファーヴィスでは僕が後を継ぐことでそれを解決した。
……まさか。
ポケットから鏡を取り出す。ガウーベルでは全員が転移による自分の容姿の変化をこまめに確認するので、僕も所持していた。
映っているのは黒髪の僕。少し背は高くなったがさほど差はない……はずだ。ローブのフードを被ると少し伸びた前髪が目を覆う。
「っ!!」
この見た目。見覚えがある。
”あの〜すみません”
”譎エबें✳︎च〒繧◻︎Υ〜Ö€に行きたいんですけど”
あの日。遠い記憶にある夜の出来事。僕の目の前に現れて異世界へ攫った男が、鏡に映っていた。
「そんな、あれは……」
あれが今の僕だったとでもいうのか?
全ては、僕の仕業だったって?
そうしたらここにサイリィがいるのはどうしてだ。すでに死んでいる彼は存在できないはず。まさか崩壊後の世界で蘇った?
そんなことがあるとしたら、きっと僕は生きて正解だ。サイリィの墓とともに消えなくてよかった。多分ここまでは何も間違っていない。
まずはサイリィが蘇るためのヒントを得なければ。サイリィと一番会いたがっているのは僕だ。僕が成し遂げるしかない。
思わぬ展開に自然と口角が上がる。その表情はあの夜の男によく似ていた。……ますます本物だ。怪しいのに妙に愛嬌のあるあの男。
頭が急回転する。僕は僕を攫った男に瓜二つ。
なら、僕がしなければならないことは。
「
カウンターにダラダラと身体を溶け込ませるサイリィを見ながら、僕はポツリとそう呟いた。
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