第15話 衝撃
「なるほど……だからカードが舞うんですね」
「そういうこと」
ガウーベルの人たちが世界を渡るときにカードが舞うのは、ただのオシャレではなくちゃんと理由があった。むしろカードが動力のメインで世界を渡っている。
行き先によって術に使うカードの絵柄は決められており、それを組み合わせて魔法陣を形成する。あとは人が個別に持つ力を吸収させ、エネルギーに変えるとか。
「上達すれば時代を渡ることも可能よ。過去はもちろん、未来もね」
「時代も渡れるんですね……」
上達すれば時代も渡れる。その言葉に僕は結構興味を惹かれた。いわばタイムマシンが自分に備わっているようなものだから。いつかはできるようになってみたと思う。
「一気に何度も世界を渡ると自分が削ぎ落とされ、見た目や雰囲気が変わってしまうから気をつけて。絶対に自分を見失わないように」
「わ、わかりました」
「まずはガウーベルの州と州を渡ってみましょうか」
それから長い時間をかけて、僕は異世界を渡れるようになった。もちろん時代も越えられるくらいの技量を身につけたつもりだ。センザさんにもお墨付きをもらっている。ここにきて、数年は経過しただろうか。ガウーベルには年数を数える習慣がなく、感覚が消え去ってしまった。
練習を繰り返しすぎて少しだけ僕の容姿にも変化があった。背丈は随分と大きくなった気がする。これはこれでいいので後悔はなかった。
その一日後、少し神妙な面持ちのセンザさんが僕を訪れて、とある紙を見せてくる。紙に僕が目を向けると、虹色の文字がふっと浮かび上がった。情報を必要としている人が見ると文字が見えるマジックグッズ。ガウーベルではお馴染みだ。
「ファーヴィスの再建完了の通達が来た」
「本当ですか……!」
「ええ。すぐ行く? もう少しゆっくりして行ってもいいけれど」
迷った末、僕はすぐに荷物を取った。センザさんとの日々も楽しかったし、名残惜しいけれど、僕はやっぱりファーヴィスの人間で、あの世界を気に入っている。僕の表情を読み取り、センザさんは困ったように笑った。
「すぐ行きます」
「わかった。自分で移動できるわよね?」
「もちろんです……あ」
「どうしたの?」
”上達すれば時代を渡ることも可能よ。過去はもちろん、未来もね”
「いえ。少しだけ違う時代に寄ってから戻ろうと思って。お世話になりました」
「いーえ、じゃあこれからも楽しんでね。ローブも忘れずに」
「はい!」
センザさんから渡せれた、異世界を移動する際に使用するローブを見に纏って、僕は意識を集中させる。
ぱらぱらとカードが舞い、それが合図のように、僕は異世界へと旅に出た。
「…………」
うっすらと目を開ける。晴れ渡る空と唐の上空に吹く風が懐かしい。そこは紛れもなくファーヴィスだった。しかし時代は異なっている。
僕は再建後約二万年後のファーヴィスに降り立っている。自分の状態を確かめておきたかったからだ。一応僕も心臓が脈打つ回数で自分の死期はある程度把握している。生きているのか、はたまたすでに死んでいて別の人物に引き継いでいるのか。
案内所のカウンターが見える位置にそっと降り立つ。多分だけれど、僕は自分が変わらずそこにいる気がしている。ゆっくりとレンガの先を覗いていく。
「!!」
しかしカウンターを見た瞬間、僕は驚きのあまり柱に身を隠してしまった。
「……どう、して」
ここは再建後、二万年ほどが経過したファーヴィスだ。しかし僕の視線の先、案内所カウンターには在りし日のサイリィの姿があった。
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