第12話 永遠じゃない世界
「ファーヴィスは永遠じゃない。ある程度の期間を空けて世界崩壊を起こす。その時が近づいてるってことだ」
ぎゅっと心臓を掴まれたような感覚に襲われた。僕はこの日々に終わりがあるなんて思いもしなかったから。
「……ファーヴィスが消えるってこと?」
「そう。壊れる前に今の状態を記録しておいて、そっくりそのまま作り直すんだよ」
「そんな……」
「サイリィのやつ……結構重要なことも教えてないんだなぁ」
当然のようにオーンは語っている。彼にとっては慣れていることのようだった。オーンは僕よりも小柄で幼く見えていたが、随分と長生きらしい。
「この世界が崩壊するのっていつ?」
「うーん、レコーダーが記録を始めてるってことは、後一年ってとこじゃないか」
「たったの一年……!?」
信じられない。この世界があと一年でなくなる……?
どうしてサイリィは教えてくれなかったのだろう……と思いつつ考え直す。
サイリィも長生きではあるが、一万年ほど前に頭を打ってそれ以前の記憶が曖昧だと言っていたから、仕方がないだろう。
「崩壊について知ったなら、タツキも考え始めないとだな」
「考えるって?」
「崩壊するファーヴィスに残るか、新しいファーヴィスに移動するか。その辺は自由だからな」
「崩壊するファーヴィスに残るって、それってこの世界と一緒に死ぬってことだよね」
「そう。今のファーヴィスが好きならアリだよ。大体三分の一くらいの人たちは一緒に消えるって話だし。再建までの間は他の異世界に移動になるけど、戻ってこられる」
もし残ることを選んだら。僕の命はあと一年。終わりが明確になる。でも僕が消えてもいけないだろう。
「でも僕がいなくなれば、ここの案内人がいなくなっちゃうよ」
「それは心配ない」
心配ない? どういうことだろうか。サイリィはあんなに必死に自分の後継者を探していた。ここの人間がいなくなったら困るから。
「新しい世界ができる時、必要なものは自然と現れたり作られたりするものだ。だから残るか進むかは自由に選んでいいんだよ」
詳しく聞けば、ここで僕が残ることを選んだとしても、新しいファーヴィスに案内人が配属される。その人は記録に則って手探りで仕事を遂行するのだ。サイリィも最初はそうだったのかななんて考えてしまう。
そこで僕ははっと息を呑んだ。この世界の墓に埋葬した彼はどうなってしまうのか。
「サイリィはどうなる……?」
「再編されたファーヴィスへ墓までは移動できない。このファーヴィスで死んだサイリィは崩壊と共に消える」
「……!」
オーンは静かにそう告げた。サイリィはこの世界と共に消える。彼が好きだったファーヴィスと一緒に。
彼の望む通りになった。希望は叶ってる。でも苦しくて眩暈がした。
「自由に選んでいいとは言ったけど、俺はこれからもタツキと話をしたい。強要はできないが、一緒に進んでくれると嬉しい」
そう言い残してオーンは仕事に戻っていった。それから何人もの人を案内したけれど、頭ではどこかファーヴィスの崩壊について考え続けている。
「僕は……」
サイリィと共にここに残るか、サイリィの意思と仕事を引き継いで新たな世界でも案内を続けるか。どちらを選んだとしても、後悔と幸福が僕のもとにやってきそうだ。オーンが言った通り、選択は本当に自由なのだろう。
世界崩壊まで、そんなに時間は多く残されていない。でもこの決断を決め切る自信が僕にはなかった。
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