第三章 新たなる日々
第11話 不確かな伝言
「お願いします。ファーヴィス名、センザという娘さんへ」
「わかった。まああまり期待はしないでくれ」
もし、サイリィの娘が簡単にこの世界に帰ってくることができるなら。父親の墓参りをすることだって叶うだろう。望むかどうかはわからない。だからこれからガウーベルに行くという客に伝言を託した。父が死んだという知らせと、墓がファーヴィスにあるという内容を伝えている。
「もちろんです。それではいってらっしゃい、良い旅を」
同じ世界に行けたって、その娘に会えるかなんてわからない。手違いで別の世界に行ってしまう事故も少なくない。それでも良かった。自己満足のようだけど、僕は彼の死を伝えたかったんだ。
「よし」
サイリィの遺品をカウンターの棚の上に置く。彼が身につけていた重すぎるネックレスと、愛用していたピッチャーだ。暇があればあの人はこれを磨いていた。
”また仕事中に磨いているんですか?”
”うん。今日は暇だから大丈夫”
もうここにサイリィはいない。だけど二人でいた時の会話はすぐに蘇る。
「こんにちは。道案内をお願いしたいのですが」
カウンターに人が来ても緊張しなくなった。僕しかいないこの案内所。でも仕事に困ることはもうない。すっかり板についてきた挨拶も自然と口から出るようになっていた。
「ようこそ迷い人よ。行き先はお決まりでしょうか?」
ーーーーー
「よお、タツキ」
「オーン。どうしたの?」
サイリィから引き継いだ仕事をこなすうち、僕にもファーヴィスの友人ができた。案内所にやってきたオーンは男らしい青年で、異世界への入り口の整備を行なっている。
「これ、資材を運んできたんだ。申請を出してたんだろ?」
「そうだ、そうだったね。ありがとう」
異世界案内所の施設は随分と老朽化が進んでいる。ファーヴィスは長く長く続く世界だ。物は元いた世界よりもありえないほど長く持つ。それが老朽化した。つまりはそれほどの年月が経ったということになる。気がつけば僕がここに来て一万年もの年月が経過していた。なぜか僕の見た目にさほど変化はない。
サイリィから三万年という数字を聞いた時に途方も無い、どうやって数えているのだと引いたものだが、案外慣れれば数えていられるものだった。
「……?」
「どうしたんだ?」
「あれ、何?」
塔のあちこちを浮遊する籠のようなものが見える。その籠には数人の人間が乗っていて、塔の壁に触れては何かを話していた。長くこの世界にいるけれど、初めて見る。
「あれはレコーダーだよ」
「レコーダー……?」
「ああ。見たことなかったのか?」
「ここ一万年は少なくとも」
そう答えれば、オーンは確かにそうかもな、と納得する。
「レコーダーはファーヴィスを再建するために今の状態を記録してんだよ」
「再建って……?」
なんだか不穏な響きだった。そんなのまるで、塔が崩れてしまうみたいじゃないか。
「ファーヴィスは永遠じゃない。ある程度の期間を空けて世界崩壊を起こす。その時が近づいてるってことだ」
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