第10話 ファーヴィスに囚われる

「ねぇ、タツキ。……ボク、君にお願いがあるんだ」

「お願い、ですか?」


 それからまた一年が過ぎた頃。掠れて随分と小さくなった声が僕の名を呼んだ。どうやら頼みがあるらしい。

 別に珍しくはない。出会った日の「後継者になってくれないか」から彼のお願いは始まり、それからも度々あった。


「ボクが死んだら……ファーヴィスの墓地に、埋めてくれない?」

「え……」


 僕はかなり動揺した。ファーヴィスの墓地に埋葬する。それが意味することをここ数年で知ったから。


「いいんですか? ファーヴィスに囚われますよ」


 この世界は言い伝えが多い。色々な世界の繋ぎ目だからだろうか、多くの言い伝えや仕来りが伝わってくる。その一つとして、ファーヴィスでは死んでいたとしても地上に長時間いれば異世界には渡れないという言い伝えがあった。

 もしまたこの世界に生を受けられたとして。他の世界を見たくても見に行くことができないと。


 だから死んでも塔の上で埋葬することを選ぶ人が多い。異世界への憧れや好奇心が皆をそうさせる。おかげでファーヴィスの墓地はスカスカで随分と安かった。何度か近くを通ったことがある。ただっ広い土地にポツポツと墓石が立っていた。


「それでいい。いや……それがいいんだ」


 ファーヴィスが好き。彼はそう言って笑っていた。




 その話をしたちょうど一年後のこと。サイリィはその長い長い生命活動に幕を下ろした。





「…………」


 最後の言葉は”君がこの世界に来た謎を解けなくてすまない”といった内容だった。彼はずっと調べていてくれたようだけれど、結局僕がいた世界の名前すら見つからないまま。


 異世界同士の移動が確立されていない世界なのだろうとだけ告げられた。それに間違いはないと思う。僕がいた世界では、異世界なんて物語の中でだけの話だったから。



「サイリィ。約束通り、あなたをここに眠らせます」



 サイリィが願った通りにファーヴィスの墓地に彼を埋葬した。安い安いと聞いていたがほぼタダのようなものだった。敷地も広い。のびのびと寝られるだろう。寝返りなんかも打てるかもしれない。


「ふっ……」


 死んでいるサイリィが寝返りを打つところを想像して少し笑ってしまった。彼との不思議で安心する時間は、色濃く僕の心に残っている。たった五年間だけれど、前いた世界の誰よりも彼とは距離が近い気がしていた。ずっと一緒にいた……いやずっと求めていた理解者が現れたような、そんな感覚だった。



「お願いします。ファーヴィス名、センザという娘さんへ」

「わかったよ。まああまり期待はしないでくれ」


 サイリィの子供は異世界に行ってしまったが、行った先の世界はわかっている。ガウーベルという、異世界同士を行き来する能力者がいる世界だ。その者たちはある程度自由に異世界を行き来できる。移動の時はステンドグラスのようなデザインのカードを撒き散らすらしい。


 ……僕をこの世界に連れてきた男もおそらくその世界の出身だ。


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