第18話 「すれ違う香り」

人混みでざわめく駅のホーム。

電車を待ちながら、何気なく視線を落としたその瞬間——


ふわりと、懐かしい香りが鼻をかすめた。


思わず振り返る。


そこにいたのは、かつての恋人だった。


別れて、もう三年。

なのに、彼はまだあの頃と同じ香水を纏っている。


——変わっていない。


香りひとつで、あの冬の日々が鮮やかによみがえる。

笑い合った日々、些細な喧嘩、すれ違い。

そして、最後に交わした「さよなら」。


目が合うことはなかった。

彼はそのまま電車へと乗り込み、

ドアが閉まる。


遠ざかる背中。

手元には、さっきまで彼と同じ香りを纏っていたマフラー。


「まだ、同じ香りを使ってるんだね……」


かすかに残る香りを胸に、私はゆっくりと目を閉じた。


「香りが紡ぐ、終わらぬ物語。」

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