第17話 「最後の一滴」
お気に入りの香水のボトルを傾けると、最後の一滴がぽたりと落ちた。
——とうとう、この香りともお別れか。
この香水を買ったのは、大学卒業の日。社会に飛び込む不安と期待を胸に、
「これを纏えば、きっと新しい自分になれる」と思った。
それからの数年間、喜びも、苦しみも、この香りと共にあった。
憧れの会社に就職し、上司に叱られながらも成長した日々。
恋をして、失い、それでも前を向いて歩いた時間。
転職を決め、勇気を振り絞って新たな道へ踏み出した瞬間。
ふと、手首に残る香りをかぐ。淡く、馴染んだ匂い。
でも、もうこの香りは、今の私には似合わない気がした。
——さようなら、私の青春。
最後の一滴をそっと手首に馴染ませる。
新しい一歩を踏み出すために。
「香りとともに生きた日々に、そっと別れを告げる。」
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