第16話 「記憶の香り」
仕事帰り、何気なく立ち寄った香水専門店。棚に並ぶボトルのひとつを手に取った瞬間、ふわりと広がる香りに、遥は息をのんだ。
——この香り、知っている。
脳裏に浮かんだのは、10年前の夏。高校最後の夏休み、初めて恋をしたあの人。夕暮れの公園、蝉時雨の中、隣にいた彼の横顔。どこか不器用で、でも優しかったその笑顔とともに、この香りは確かにそこにあった。
「お客様、この香り、お気に召しましたか?」
店員の声で我に返る。遥はゆっくりと頷き、ボトルを握りしめた。「これ、ください」
香りを纏えば、時間を遡れる気がした。あの頃の自分に会いに行けるような気がして、遥は足を向ける。10年ぶりに訪れる、あの思い出の場所へ。
夕焼けに染まる公園のベンチ。遠い記憶とともに香る、懐かしい匂い。遥はそっと目を閉じた。
「香りは、時間を超えて心を揺らす——10年前のあの夏へ。」
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