第15話 「香りの記憶」


「これ、どれがいいと思う?」


放課後の百貨店。高校生の奈々は、親友の美咲と一緒に香水売り場を訪れていた。小さな紙片――ムエットを手に、奈々は真剣な表情をしている。


「うーん、どれもいい香りだけど……ちょっと嗅ぎすぎて、鼻がバカになりそう。」


美咲が鼻をすすりながら言うと、店員がにこやかに話しかけてきた。


「香水を試すときは、ムエットを軽く振ってアルコールを飛ばしてから嗅ぐといいですよ。あと、一度にたくさん嗅ぐと混ざっちゃうので、間にコーヒー豆の香りを嗅ぐとリセットできます。」


「へぇ、そんな方法が……!」


奈々は言われた通りにムエットを振り、改めて香りを楽しんだ。「こっちのほうが柔らかく香る気がする!」と、感動した様子だ。


「ムエットって、持ち帰ってもいいんですか?」


美咲の質問に、店員は笑顔で頷く。


「もちろんです。使わないときはノートに挟んだり、ポーチに入れておくとほのかに香りますよ。しおり代わりにして、読書のたびに香りを楽しむのもおすすめです。」


「おしゃれ! 香水の余韻を楽しめるなんて素敵だね。」


奈々は気に入った香りのムエットをそっと手帳に挟んだ。きっと、あとでこの手帳を開いたとき、今日の思い出が香りとともによみがえるだろう。


香りは、記憶を紡ぐ。そう思うと、奈々は少しだけ幸せな気持ちになった。


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