第14話 「香りの秘密と理科室の実験」


「えっ、香水の中におならの成分が入ってるって、本当?」


昼休み、理科室の片隅で、好奇心旺盛な高校生・遥(はるか)は驚きの声を上げた。


「本当だよ。」


そう答えたのは、化学が得意なクラスメートの悠真(ゆうま)だった。彼は黒縁のメガネを押し上げながら、理科室の実験台に置かれたフラスコを指さした。


「スカトールっていう成分なんだけど、単体だとすごく臭いんだ。でも、微量だとジャスミンやチュベローズみたいな甘い香りになるんだよ。」


「えぇー!? そんなの信じられない!」


遥は自分の手首につけた香水の香りを嗅いでみた。甘く優雅な香りが広がるが、おならの気配はどこにもない。


「じゃあ、試してみる?」


悠真がニヤリと笑い、実験用の瓶を取り出した。中には、ごく微量のスカトールが入っているらしい。彼はそれを慎重にフラスコに移し、他の香料と混ぜ始めた。


数分後、彼が作った香りの試作品を差し出した。「ほら、ちょっと嗅いでみて。」


遥はおそるおそる鼻を近づけた。「……あれ? いい匂い。おならの臭いは全然しない?」


悠真は得意げに頷いた。「でしょ? 人間の鼻は、濃度によって匂いの感じ方が変わるんだ。強すぎると臭いけど、ごくわずかだと華やかな香りになる。不思議だろ?」


「すごい……! 化学って面白いんだね。」


遥は感心しながら、もう一度香水を嗅いでみた。今まで何気なく使っていた香りに、こんな秘密が隠されていたなんて。悠真の得意げな顔を見ながら、遥はふと思った。


「ねえ、もしかして悠真って、結構ロマンチックなこと考えるタイプ?」


「は!? いや、これはあくまで科学の話で——」


「ふふ、でもさ、香りって奥深いね。」


そう言って遥は微笑んだ。香水の甘い香りが、二人の距離を少し縮めたような気がした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る