第11話 「シダーウッドの記憶」
奈々は長年使っていた香水の瓶をそっと手に取った。それは、もうこの世にいない父から贈られたものだった。
彼女がまだ高校生だった頃、父は誕生日にシダーウッドの香りがベースの香水をプレゼントしてくれた。
「これはね、落ち着きと自信をくれる香りなんだ。大人の女性になるお前にぴったりだと思ってな。」
恥ずかしくて素直に喜べなかったが、今になって思えば、父の愛情が込められた贈り物だった。
社会人になった奈々は、仕事に追われる毎日で疲れ果てていた。そんなある日、クローゼットの奥からその香水を見つけた。
キャップを開けると、木々の温もりを感じさせる深い香りがふわりと広がる。途端に、父と過ごした日々が鮮やかに蘇った。
厳しくも優しかった声、休日の公園で並んで座ったベンチの感触、そして、不器用ながらも奈々を気遣う姿。
「お父さん…。」
思わずこぼれた言葉に、自分でも驚いた。シダーウッドの香りが、心にぽっかり空いた穴を少しずつ埋めていくようだった。
その日から奈々は、仕事へ行く前にそっとその香水を一吹きするようになった。
香りに包まれるたび、父が背中を押してくれている気がした。そして、不思議と自信が湧いてくるのだった。
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