第6話 香水の記憶
玲奈は、初めてのデートに向かう前に、母のドレッサーの前に立っていた。そこには、見慣れた香水瓶が並んでいる。
「香水って、どこにつけるのが正解なの?」
高校生の頃から気になっていた疑問を、今さらながら口にした。
「香りは、さりげなく纏うのが大事なのよ」
母は微笑みながら、玲奈の手首をそっと取ると、香水をひと吹きした。
「ここは脈があるから、体温で自然に香りが広がるの」
玲奈は興味深げに手首を嗅いだ。ほんのりと甘いバニラとフローラルの香りが漂う。
「次は、耳の後ろ。ここも体温が高い場所だから、動くたびにふわっと香るの」
母の指先がそっと玲奈の耳元に触れた。そこへも香水をひと吹き。
「最後に、ウエストや膝の裏。下半身にも少しつけておくと、香りが下からふんわり立ち上って、優しく広がるのよ」
玲奈は母の言葉を心に留めながら、慎重に香水を纏った。
「こうやってつけると、自然に香るんだね」
「そう。そして大切なのは、『自分のためにつける』ってこと。香りは、自分自身を楽しむものだから」
母の言葉に、玲奈ははっとした。そうか。香水は、誰かのためじゃなく、自分のために纏うもの——。
その夜、玲奈はデートの待ち合わせ場所に向かった。風が吹くたびに、自分の香りがふわりと広がる。
彼に気づいてもらえるだろうか——。
そんなことを考えながら、玲奈は少しだけ背筋を伸ばした。
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