第3話 雨の日のジャスミン

1. 雨の匂いと、あの香り

雨の匂いが広がる駅のホーム。


千紗(ちさ)は傘を持たずに立ち尽くしていた。


「……またやっちゃった」


朝は晴れていたのに、帰る頃には土砂降り。最近、こういう小さなミスが増えた気がする。仕事のミスも、友達との約束の勘違いも。


(私って、なんでこんなにダメなんだろう)


ため息をついたとき、不意にふわりとジャスミンの香りが漂ってきた。


振り向くと、一人の女性が隣に立っていた。黒いワンピースに、静かに微笑む端正な顔立ち。


「傘、持ってないの?」


千紗は驚きながら頷いた。


「じゃあ、一緒に入る?」


女性はそう言って、自分の傘を千紗の方へ傾けた。


2. ジャスミンの秘密

二人で歩きながら、千紗はふと尋ねた。


「……その香水、素敵ですね」


女性は少し驚いたように笑った。


「ジャスミンの香り、好き?」


「はい、なんだか落ち着くというか……」


「ジャスミンにはね、自分を肯定する力をくれる効果があるのよ」


千紗は目を瞬かせる。


「肯定……?」


「自分を責めがちな人ほど、ジャスミンの香りに癒されるの。『それでいいのよ』って、そっと背中を押してくれる香りだから」


千紗はハッとする。


(私、最近ずっと、自分を責めてばかりだった)


ミスをすれば「どうして私ってこうなの?」。友達とすれ違えば「私が悪いんだ」。そんな風に考えてばかり。


でも、今ふわりと香るジャスミンは、まるで**「それでも大丈夫」**と優しく包み込んでくれているようだった。


3. 香りがくれた気づき

「ありがとう」


駅前の交差点で別れるとき、千紗は自然とそう言った。


女性は微笑み、静かに去っていった。


翌日、千紗は香水売り場に足を運んだ。


ジャスミンの香り。


香りを確かめると、昨日の優しい言葉が蘇る。


「これください」


自分を少しでも肯定するために——そう思って、小さな瓶を手に取った。


雨の日も、晴れの日も。


この香りが、そっと自分を支えてくれる気がした。

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