「文化祭も一ヶ月後に迫ったわけだが、ここでみんなにお知らせがある。今年の文化祭は感染症が落ち着いてきたこともあって大規模にやることになっている。そこで、中庭のステージで有志発表する人を募集する!やりたい奴は明後日の放課後、大会議室である説明会に参加するように。」


 朝のホームルームで担任が告げたその言葉にクラスがザワザワとした。これは僕の夢への第一歩となるかもしれない。


 「なあ、お前、有志発表興味ない?俺ら有志発表でダンスやりたいんやけど経験者がおらんくてさ。お前ダンス習ってるよな?お願い!俺らと一緒にやってくれへん?」


 そう声をかけてきたのはクラスの友達。これはチャンスだ。有志発表に出たいと思って、誰を誘おうか悩んでいたから。


 「いいで。僕でよかったら喜んで参加する。」


 「よっしゃ!まじでありがとうな。」


 そこからとんとん拍子に話は進んでいき、文化祭まであと二週間となった。僕たちは部活の合間を縫って毎日練習した。みんな未経験とはいうものの、センスがあるのかだいぶ形になってきた。練習帰り、僕を誘ってくれた友達と帰り道が一緒になった。


 「なあ、お前、夢ってある?」


 それは唐突な質問だった。僕には夢がある。けれど高校生になってまでこの夢を追い続けていることに少し後ろめたさがあった。


 「俺はさ、夢がないんや。だから、夢がある奴が羨ましい。」


 「僕は夢、ある。誰かに笑われるかもしれん、馬鹿にされるかもしれん、ってずっと言えんままやけど。」


 僕がそういうと彼はじっとこちらをみてきた。そして少しの沈黙のあと、口を開いた。


 「夢ってさ、口に出したほうが叶うらしいで。お前は夢があって、夢を叶えるための道のスタートラインに立ててるやん。だから夢に向かって歩き出せるよな。そういうのっていいことばっかじゃないやろうけど、そこで味わえる喜怒哀楽は夢を追える人の特権なんやろうな。俺みたいなのには味わえんものやと思う。」


 確かにそうなのかもしれない。なら、勇気を持って口に出してみようか。こいつなら笑わないだろう。


 「僕の夢は、アイドルになることや。その夢に近づきたくてダンスをずっと習ってる。」


 「俺、今日からお前のファン第一号な。」


 「なんやそれ。」


 「ええやん。それやったら文化祭のステージ大成功させなあかんやん。将来お前がテレビ出た時、学生時代の様子みたいな感じでテレビに流れるかもしれん!」


 「気が早いな。まあ、そうなるように頑張る!」


 暗くなった帰り道、街灯の下で僕は笑った。いつかスポットライトの下、まだ見ぬファンの前で笑う未来に思いを馳せて。


 


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