第6話黒月下、教会にて

晴天──太陽は見えない。


 蒼とは程遠い空。


 黒。計り知れなく広大な濃淡を持った黒。


 ただ何処までも深く、黒い……。それも、烏羽玉ぬばたまのような鮮やかな黒。


 そこに、常世を照らす光が差す。


 夜──日の代用たる存在として月がまた、世界を作る。


 星々が瞬く。一歩一歩と歩みを進めるたびに聞こえる赤い音。生命を維持すべく、止まる事なく循環する血液の音。


 空よりも暗く、光の灯る事を知らない地面に、独りの少年の影の上に。


 光が灯され、再び影が堕ちる──


 手には桃花の手提げと木刀。目の前に、あの探偵が落とした資料とやらを掲げ、ゆっくりと歩く。白い紙が、じわりと赤く染まる。


「断罪。怪異・罪廻乃断……罪の意識は"それ"を呼び寄せる……。"それ"は一つ、殺された者の願いを受ける。"それ"は一つ、裁きを求める者の元に現れる。巨大な鎌を持ち──罪人を斬り裂く存在にして、また酷な運命を歩んだ一人の……人間」


 そこまで読んで僕は理解した──


 桃花は今、断罪の名を冠する怪異を紛れもなく引き寄せてしまっているという事を。また、何かに対し罪の意識を持ってしまっているという事実を。


 こんな夜、日常から急激的に乖離した夜。


 僕は何故か、過去の出来事を思い出す。


 中学の入学式の事だっただろうか……彼女はその頃まで、よく泣いていた。


 本当によく泣いていた……。その理由は依然として僕に教えてくれる事はなく、それで僕もまた、聞くことで彼女を傷付けたくないという思い静かに近くを歩んでいた。


 一つ。


 そう、一つだけ。


 彼女が繰り返す言葉があった。


 確か、「また家族に嘘を付いてしまった」とか、大体そんなものだったと思う。誰かに向けて話すわけでもなく、独り、泣きながら言い続けていた言葉。


 僕には、その虚言を吐く事への苦痛が分からなかった……いや、分かれなかった。


 何故かって嘘を吐くまでもない、極普通の日常に暮らしていたから。そして、それ以上に嘘を吐くこともまた日常の一つであったから。


 だからと言って毎日が偽りに満ちていたということでは微塵もない。


 ……自身の言動が、虚像であることに負の感情を抱く事の無い。


 そんな程度の生活を送っていたのだから。大した事のない、大それる訳もない、凡俗で日常から到底逸れる事のない世界の中でのうのうと暮らしていたから。


 だから、僕は結局として桃花を慰めることは出来なかった──だから。それを分かっている彼女は、彼女が自身の虚像を作り出したその翌日、いつも──


 そう、昨日の朝のように──


 泣いた後の姿を見せること無く、ただ眠いなあとだけ言って笑って……。

僕は、何の変哲も無い住宅街を歩みながら、思い出した記憶に痛覚を覚え、木刀を強く握る。


 背後から不意に、死体が焦げ付くような匂い。


 背後を振り返ると僕を襲った、死体喰らい。怪異が、光の弾に燃焼されるようにと消失していってく光景がそこにはあった。性格には全く同じ個体ではではない様なのだが。


 あの怪異がまた現れた……? 僕を狙って?


 その場で思わず考え込む。すると──


「君っ! 大丈夫かい? どうした。血だらけじゃないか」


 銀髪のお兄さんが前方から走ってきた。化け物が見えていなかったのか、ただ怪我をしているだけの僕を見ながら走ってくる。


 ビーチサンダルである。


 そして、転ぶ。転倒する。


 水色のアロハシャツから背中が見える……。

 いや何者だこの人は。


「まあ、まあ、落ち着け。手当してやるから。あ、そうだ〜ついでに教会でも見に行かないか? 建造が始まったらしいから見に行こうと思ってたんだが。はっはっはっ……って笑い事じゃねえなその怪我」


「あ、え?」


 どうやら血だらけで街中を歩いている少年を普通に心配しているようだった。


 流れるように話し始める男。


「いや、別に大丈夫なのですが」


 おもわず普通に拒否してしまう。


 特に暑くも何ともない街中で、海からも近いとは言い難い街中で……。それでも結局何処か行く当てがある訳でもない僕は、その男の横に並ぶようにして歩く。


 教会の人間と言っていたからには、神父が何かなのだろうか。こんな胡散臭い神父の元で何かを進行するのは気が引ける。


「ああ、そうだ! 名乗ってなかったな少年!」

 僕の思考に気付いたのか、男は言う。


「何処の、とは言えないが、教会第四席にして擬悪ギアク周道すどう奏命かなめという者だ。よろしくな! 一応神父をやっている」


 擬悪……教会の称号か何かなのだろうか。そして……神父であった。


 取り敢えず手を差し出されてしまったからにはと、僕もそれに応じて名を名乗る。


 そして、また歩く──


 何処まで行っても極普通の住宅街、先程の怪物の存在が嘘であるようにも感じてしまう。ただその空間が異質で、裏舞台から急に表に弾き出されてしまったような……。

「時に少年、君は罪を信じるかい?」


 男は、不意に聞いてきた。


「…………」


「何、別にこの変人集団に勧誘しようとしている訳じゃあない。ただ迷える者の真意を問おうとしているに過ぎないのだから」


「そうですか、ならば僕は答えます。僕は、─────」


 そう答えると周道さんは笑った。快活に、何処か寂しげに。僕の答えがどのようなものであったか自分でも分からないのだが、ただ楽しそうに。


 ただ答えたという事実だけが、暗闇の中に溶けていく。


「ははははは! それは良い答えだなあ少年よ。私は神を信じてはいないが、それもまた神の真意に匹敵するものではないか! 人類は皆、自己の創造主──面白い言葉を聞けて良かった良かった。と、丁度良い頃合いで到着だ」


 坂の上、月下に浮かぶ荘厳な白色の建物。


 教会──と、男は言う。


 建造中でありながら、確かな存在感とまるで何十、何百年も前からそこにあったかのような揺るぎ無い神々しさ。


 人が作り、人が入り、祈りを捧げる。それだけには留まる事を知らないであろう空間は、天高く伸びる塔のようにも見て取れる。


「……、美しいな。少年よ──」


 男は、神を信じないと言いながらも現にこうして神聖なる領域を見て……。


 ザッ……。


「…………!?」


 僕もまた、目の前の空間に目をやると、それと同時に耳元に肉の裂ける音が冴え渡った。あの聞き覚えのある錆びた鎌の音が、地の底から響き渡るように。


 怪異が、居る……。


 その音色は、この教会の中から留まらずに鳴り響いているようで、静寂を根絶やしに、確実に何かを斬り裂き続けているのが分かる。


 遂には鋭く残酷な音だけが、聴覚の世界を支配する。


 対して、見上げるように周道さんの顔を覗くと、彼は讃美歌にでも魅入られたかの様な笑顔を浮かべている。この教会の完成を待つ一人の神父としての希望の眼差しで。


 怪異──非日常に潜む者たちの放つ音は、表舞台の人間には聞こえない。それが普通の事……紛れもなく極普通の人間として、この世界に紛れて生きる者の術として。


 僕は改めて、地面を見つめる。


 此処にはあった──迷える者の探すものが。


 その確信は、建造中の門の前に落ちていた。


 黒の天地に挟まれて、月光と街灯に照らされて──


 これから出来上がるであろう花壇の前、神聖なる者を崇める徒が潜る門の前。


 青紫の椿の髪飾りがひとつ、鈍くも美しい光を放っていた。


 僕はそれを目に入れた瞬間、足の筋肉に力を入れる。


 神父に手当てをしてもらう為に、この教会に来た……? いや、それ以上に僕が求めているものがこの中にある。きっと……耳をつんざくようなあの音色すらも、今既に動き始めた視点から見えるステンドグラスの奥──そこに居る黒い影すらも。


 今、僕が求めているもの──


「さて、少年。流石に平気そうな顔をしているとは言えど、怪我を負っている者を教会の……神父として」

 神父が、そう声を掛けた頃には、少年の姿は既に無くなっていた。


 影もなく、滴り落ちた血液だけがその存在を指し示す。


「はは、もう去ってしまったか……。まあ良いさ」


 確実に何かを視ている者の目、何かに魅入られている者の目で、誰一人として理解される事のない微笑を浮かべ──神父は続ける。


「こんな夜には何と言おう──そうだな。これがいい。さて、傷だらけの少年よ……。君は神の祝福狂った世界を信じるか?」

微かに口元を震わせ、呟く。


 一つの狂気を孕んだ笑い声が、宙に舞う星々を突き刺す様に鋭く轟く。


 僕は、その男の言動の全てに興味を向けることは無い……ただ歩み、木刀を握って構えるのみ。


 先に何が居ようとも。それが例え、非存在であろうとも。


 僕は木の扉に手を掛ける。


 飾り気の無い、物寂しい空気を纏う入り口。


 これから付け加えられていくのであろうが、純白と灰の色彩は礼拝堂の機能を持ちつつも、祈りを捧げるにはどうも異質である様に感じ取れてしまう。


 そして、開く──


 地に膝をつくブギーマン、その青年には胸部から首にかけて切り裂かれた跡があった。


 それと二つの影。


 今までに見た事も無いほどに恐ろしい風貌の何か……。それは、怪異であり──そして、確かに見た事のある者。


 学校で見た黒い影、夢の中で見た黒い影のひとつ。


 もう一つの影は、今なら解る。


 泉導さん……探偵だ。調査を終えたであろう人物、その表情は見えないながらも真剣な面持ちで怪異と対峙する。


 そして、閉まった扉の音と僕の気配を察知したのか振り向かずに呟いた。「……来てしまいましたか」と。


「当たり前じゃないですか。……それとも、僕が大切な人間のピンチに駆け付けない薄情者だとでも思っていたんですか? 心外というものです」


 罪廻乃断は、新たな人間の登場を前に鎌の向ける先を思考する。自分で放ったら言葉に反して、近くのガラスに映る僕の目は、爛々として嬉々として、輝いている。


「まあ、いいでしょう」

 微かに息を吐くように探偵は言った。


「……ところで、罪廻乃断さん。交渉はお好きですか?」


 一呼吸置いた探偵は、いつもの調子……落ち着いた声で目の前の怪異に話し掛ける。ブギーマンの上で未だ鎌を持ち、直立した状態で。


 目に見える影の姿が徐々に濃くなる。血だらけの女性の姿を確立していく。だが、そんな状況に連れながらも、探偵の声が届いている様子は無い。


 いや、聞く耳すらも……断ち切られているかのような。


 見れば見るほどに分かる無惨な姿。


 それは、怪異として生まれ堕ちてからの今まで、罪人の首を刈る事のみを存在理由として此の世界で──断罪として存していた事を指し示す。


「竜胆髪のお嬢さん……。七海夜桃花さんはあの紅のマントの中です」

 静かに探偵は耳打ちする。


「だとして、僕に何が出来ると言いたいんです?」


「そうですね……例えばお嬢さんを救う事とか、ですね。それに、これでも私の都合というものもありまして……、教会の方に見つかると色々とマズい。早々に終わらせますよ」


 低い声でそう言うと、足音を立てる事無く罪廻乃断へと探偵は歩み寄る。黒いスーツに黒いコート、爪先から脳天まで漆黒で覆われた人物。白と灰で満ち足りた神聖な空間で一際異彩を放つ。


 グレースケールの世界にて、空を斬るように錆鉄色の閃光がほとばしる。殺気めいた一太刀、処刑人たる威厳。目の前にその斬撃が現れたのを認識した頃には、僕の体は未完成の天井にと叩きつけられていた。


 本来なら清浄なる芸術が綴られていたであろう天井キャンパスに……そして、重力は裏切る事無く僕を地へと突き落とす。


「ッ…………!」

 呼吸がままならない。

 その衝撃と同時に、僕の体からは感覚が消失する。


 暗転する視界。身体中の神経が抜き取られ、氷漬けにされたかの様な圧倒的な悪寒。自分自身から乖離する程に強く広がる心臓と脳の鼓動。


 死の感覚……。魂が体を形成する。


 自分以外の何者でもない完全な状態。


 そうだ、これは──


「……やっと……ガキが」


 地に落ちて、ボロボロになった僕の死体が口を動かす。


 ショッピングモールで、僕の家だった場所の近くで、僕を体からは追い出してまで言葉を発してきた何か。それは口角だけを上げ、掴んだままの木刀を霊体であろう僕に向かって投げつける。

だが、その木刀は僕の体を通り抜ける事はなく、そのまま僕の手に収まる。


 罪廻乃断の攻撃を流しつつ、未だ交渉を持ちかけ続ける探偵。


 ブギーマンはまだ地に膝をついたまま、動かない。血に染まったかのような赤黒いマントは風に揺れる事も無く。


「貴女の言う罪人……七海夜桃花の罪状とは如何に」


 鎌を振る怪異に、探偵は相変わらずの黒い装束を着込んだまま被害を最小限に抑えながらかわしていく。


「……罪、ジョウハ……契リをカワシタ親族ヘノ裏切リ。裁キを望ンだのハ、彼女自身。故ニ此処デ命を断つ」


 親族・家族への裏切り──


 ブギーマンと続き、二体の怪異は言った。それが七海夜桃花の罪であると……。


 そして、また鎌を振り下ろす。その先は、泉導さんを挟み、反対側に位置するブギーマン。


 つまり、七海夜桃花に向けて。


 飛ぶ斬撃を撃ち放つ。すかさず泉導さんが走り、攻撃を止めようとする。


 だが、実態の体には影響を与える事が無いのか、黒いコートとその体に一切の傷をつける事なく斬撃は進む。


 灰色の床を蹴り、僕は宙を舞う。


 霊体となった事を完全に自覚した体は異常なまでに軽い。そして、手に握られた木刀が、戦闘に無縁に生きてきた僕、死体の中身だけの僕を戦場へと導く。


「おおおおおお!!」


 切っ先は真っ直ぐに鎌を持つ亡霊の元へ。


 その間、瞬間という言葉すらも永遠に感じてしまう程の瞬時の出来事。


 金属同士のぶつかる音が鳴り響く。


「……ほう」

 泉導さんは、既に攻撃を止める別の手段を持っていたようでありながら、木刀から教会の壁へと反響する金属音に微かに何処かを納得したかの声を漏らす。肉体も無く、軽い筈の体。それは、押されようとも動かず確固として剣戟を放つ。


 僕が、ではなく木刀が怪異を欲するかの如く。


 その様子を見て、何かを思ったのか探偵は止まることを知らずに響く金属音を超えて言葉を投げかける。


「憑風綾羅くん! その状態、維持できますか!」


 呼吸の要らない体でありながらも、此処までも人間離れした鎌の動きに着いていくのは流石にキツい。先程からの負傷の蓄積から一時的には解放されたとはいえど返事すら、もすることがままならない。


 上下左右前後から処刑人死神は鎌を振り翳す。僕の霊体となった手に収まる木刀は、その全てを受け流す。剣豪が剣の動かし方を魂で知っているかの如く、この木刀は使用者の動かし方を刻み込まれたかの如く……。


 その中、探偵の問いに僕の声で誰かが返答する。


「それなら問題ねえよ。あの刀──樹黙即刃ジュモクソクジンなら、絶対にあの魂は守ってくれる……」


 だが、そうして体を起き上がらせようとした途端に体は止まり……元の死体へと戻る。


 分からない、全く分からない。


 だが、探偵はその言葉に確かに頷いて戦闘を続ける僕を向いた後、自身の黒い手袋へと触れて、少しずつ此方に近づきながら何か、呪文のようなものを呟き始める。



「原初よりイデしはコトワリコトワリを辿るは道筋。真理求む道中より顕現せしは虚構の道理。果てを知らぬ道外れ──外道よりの民は嘲笑う。またその嘲笑の名は浄化誘う神の微笑。それは、異界の夜を呼び、反射光にして根源となる。それは、根源にして恒久の存在証明。それは、存在証明にして永久トコシエの非存在を啓く事の葉……」


 徐々に探偵の右手が鈍く光っていく。すると、罪廻乃断の鎌の動きが遅くなる。


 遅くなる、というよりも何かに縛られ、何かを恐れているかのような声を出し始める。


 そうして、何かの力を発動させたであろう探偵が罪廻乃断に触れるか否かの瞬間──

バン! と扉が大きな音を立てて開かれる。


 嫌な、人によっては恐怖すらも感じさせる笑みを浮かべた神父周道さん


 拍手をしながら、その場に居る全員の注目を集める。


 手から鳴る音の一つ一つに力が込められているかの如く、周囲の空気を震わせる。銃声とも形容出来る程の音の圧力。


 この空間に明らかに見てわかる場違いな水色のアロハシャツにビーチサンダル。そうであるというのに、この威圧感は空気感の違いを感じさせない。


 むしろ、更に重くするかの様に一言一言を発していく。


「浄化の詠唱……、対象となる怪異、憑かれた者の真名、その原因と経緯。その全てを完全に、把握してこそ発動するもの──怪異本人が、虚偽の発言を行えないのを知った上で真っ向から問いを投げかけるとは」


 空気の揺れは、動かなくなったブギーマンの体に響き、目を覚まさせる。罪廻乃断すらもひしひしと広がる殺意に対し、罪人へ向けるものとは明らかに質の違う何かを感じ取る。


「素晴らしい。神の祝福ギフトとも呼べるその力……教会の者で無い貴方が何故、使えているのか……甚だ疑問と嫉妬が燃え盛るがなあ!! 仮面!!」


 男がそうして暗がりから完全に視界へと現れたその時、探偵が瞬時に詠唱の発動を停止させ、走り出す。


神父か最悪だ……来てやがったのか気色悪い」


「ははは、よく働いてくれたなブギーマン──だから此処で用済みだ。私の愛する者の為に、よく働いてくれた……。ああ、今日は月が綺麗だなあ!!」


 天を見上げる事なく、月光で出来た影を見つめ、男は言う。


「聖痕発動! 影髑選択セレクトシャドウ──影葬悲殉エイソウヒジュン疑惑ムザーガ


 瞬時に広がる黒い影の塊。


 ブギーマンは、その技を知っているのか……貫かれた体を無理矢理動かし、即座にマントを翻す。


 死体の様に転がる僕の体。


 霊体として、それを見つつもどうする事も出来ず、あのアロハ服の神父の操る影に飲まれそうになった瞬間に、僕の体に意識が戻り全身に蓄積されていた激痛が神経を走る。


 痛い。


 痛いだなんてものじゃない。体が動かせるわけもない状況下、赤い服の影が現れる。それは、探偵を背負い──


 建造中の教会の中から、僕たちは姿を消した……。


 子を誰にも見られる事なくして攫う鬼の力で、霧の様にその場から僕たちは消え去った。


 取り残された罪廻乃断は、笑う神父の操る影に飲み込まれる。


 去り際に、周道奏命は言った……「これで罪を裁く事が出来る……私が愛する者の為に」と。


 そして、長い今日という日は幕を降ろし、僕の日常と呼ばれていた世界からもまた砕け終わり始める音が鳴り響く──

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ある者達の人生譚 @kyomu4245

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