第7話 砂の誓い

 朝日が王国を照らし、淡い光が少女の頬を染めていた。

 彼女の手の中には、クロノスから授けられた新たな砂時計が静かに揺れている。


 しかし、その砂時計はまだ空だった。


 「これは、私が満たしていくもの——」


 少女は静かに誓うように呟いた。




 再び訪れた王国の街並みは、以前と変わらずに賑わっていた。

 しかし、砂時計を持たぬ自分を見つめる視線に、彼女はもう怯えなかった。


 過去に犯した罪も、砕けた砂時計も、すべてが彼女の一部だったからだ。


 「時間を失った者は、何者にもなれない。」


 かつての言葉が心に蘇る。


 けれど今の彼女は違う。

 時間を失ったからこそ、自分が何を望むのかを知った。


 少女は静かに街を歩き出した。




 その道の先に、再びあの砂商人の姿があった。

 彼は相変わらず不敵な笑みを浮かべている。


 「おや、まだ取引を望むのか?」


 少女は首を振り、しっかりと彼を見据えた。


 「いいえ。私は自分の時間を、自分の手で刻みます。」


 その言葉に、砂商人は驚いたように目を細めた。


 「ふふ……面白い。だが、その覚悟が続くかどうか、見ものだな。」


 そう言い残して姿を消す砂商人。


 少女はただ静かに立ち尽くし、再び砂時計を見つめた。


 「私は、私の時間を生きる。」


 その決意とともに、砂時計の中に一粒の砂が落ちた。


 それは小さな始まりだった。


 けれど、その一粒が時を刻む限り、少女の物語は続いていく。

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