第6話 クロノスの約束
少女が時の宮を後にした夜、星々の瞬く空の下で彼女は静かに歩いていた。
手の中には何もなく、砕けた砂時計の重みだけが心に残っている。
そのとき——
「再び出会うとは思わなかった。」
柔らかく、それでいて重厚な声が響く。
目の前に立つのは、時の神クロノス。
流れる砂で形作られたような姿を持つ彼は、穏やかなまなざしで少女を見つめていた。
「お前が望むなら、再び砂時計を手にすることもできる。」
クロノスはそう告げる。
「だが、その前に知るべきことがある。」
神の手が空を指し示すと、夜空に無数の星々が線を描き、ひとつの映像が浮かび上がった。
それは少女がかつて生きた日々——
笑顔、涙、怒り、喜び。
そのすべてが、砂時計の砂となって流れ続けていた。
だが映像が進むにつれ、少女の目は驚きに見開かれた。
「これは……私の罪?」
映し出されているのは、彼女が砂時計を砕く瞬間だった。
その理由はただ一つ。
——誰かの時間を救うため。
少女は、自らの砂時計を壊し、他者の命を救ったのだ。
「汝は罪人であると同時に、赦しを与える者でもあった。」
クロノスの言葉に、少女は震えながら問いかける。
「それでも私は……再び砂時計を持つ資格があるの?」
神は静かに頷いた。
「だが覚えておけ。新たな砂時計は、再びお前の運命を定めるものとなる。」
クロノスが手を差し出すと、金色に輝く小さな砂時計が宙に現れた。
「選ぶのだ。過去に囚われるか、新たな時間を紡ぐか。」
少女は目を閉じ、胸の奥に問いかける。
これまでの罪、これからの道。
彼女の答えは——
やがて静かに目を開けると、少女はクロノスの手から砂時計を受け取った。
「私は……自分の時間を生きる。」
その瞬間、砂時計の砂が静かに流れ始めた。
新たな時間の音が、彼女の耳に優しく響いていた。
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