第8話 終わりと始まりの砂

 少女の手の中で、砂時計は静かに時を刻んでいた。

 それは透明なガラスの中で輝く、淡い金色の砂。


 砂はゆっくりと落ちていく。

 一粒一粒が、彼女の選んだ時間だった。




 王国の空は澄み渡り、遠くの鐘が穏やかに響いていた。


 かつて砂時計を失い、時の流れから外れた少女は、今やその流れの中にいた。

 限られた時間を知ったからこそ、その一瞬一瞬が愛おしい。


 街では子どもたちの笑い声が響き、砂商人はまた新たな取引に精を出している。

 時の審判者の目は厳しいままだが、その視線の奥には静かな敬意が宿っていた。


 クロノスの神はもう何も語らない。

 少女が自らの選択を信じることを、見届けているのだろう。




 「私は私の時間を生きる。」


 少女はかつての罪を忘れない。

 けれど、それはもはや彼女を縛るものではなかった。


 罪を知り、痛みを受け入れ、過去と向き合った。

 その先に見えたのは、未来へと続く道だった。


 砂時計の砂は、ただ穏やかに落ち続ける。


 その一粒一粒が、彼女の新たな物語を紡いでいく。


 終わりであり、始まりでもある。


 彼女は微笑み、ゆっくりと歩き出した。


 —— 限られた時間の中で、自分を肯定する旅は終わり、そして続いていく。

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砂時計の王国 まさか からだ @panndamann74

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