第5話 時の審判者
少女が罪人の街を離れ、辿り着いたのは王国の中心にそびえる時の宮だった。
天を衝くような塔の内部は、無数の砂時計が静かに時を刻む場所。
そのひとつひとつが、王国に生きる者たちの時間を象徴している。
だが、少女の砂時計は砕け、今は存在しない。
「砂時計を失った者は、この場に立つ資格すらない。」
そう呟きながらも、少女は宮の奥へと歩みを進めた。
広間の中央にある巨大な砂時計は、時の審判者の象徴だった。
突然、周囲の空気が張り詰める。
「名を名乗れ。」
低く響く声が広間にこだました。
姿を現したのは、漆黒のローブをまとった男。
その瞳には、流れる砂のような光が宿っている。
時の審判者——王国の時間を司る存在。
「……私は、砂時計を砕かれた者。」
少女は震える声で答えた。
「罪人の名を隠すことは許されない。」
審判者の視線が少女を貫いた。
彼の手元の砂時計が僅かに揺れ、過去の映像が浮かび上がる。
そこに映るのは、砂時計を砕いた瞬間の少女の姿。
「汝は時を拒み、運命を壊した。」
その言葉に、少女の心は締め付けられる。
「だが、砕かれた砂時計の罪はただの始まりに過ぎぬ。」
審判者は手を掲げると、天井の砂時計群が一斉に輝き出した。
それは、少女の過去、そして失われた時間の断片。
「これより、汝に裁きを下す。」
砂が舞い上がり、広間に砂嵐のように渦巻く。
「時の赦しか、時の消滅か。」
審判者の声が重く響いた。
「旅を続ける中で、汝がその答えを見出せ。」
裁きは決定されず、少女に猶予が与えられた。
砂嵐が静まり、広間の空気が戻る。
「行け。自らの時間を取り戻すために。」
少女は審判者の視線を背に、再び歩みを進める。
彼女の旅は、真の意味でここから始まるのだった。
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