第4話 罪人の街
少女が霧の森を抜けると、目の前には沈んだ灰色の街が広がっていた。
罪人の街——それは、砂時計を砕いた者や、時を歪めた者が流れ着く場所。
ぼろぼろの石畳、崩れかけた建物、そして無数の視線。
「ここが……罪人の街。」
街を覆う空はくすんだ鉛色で、太陽の光さえ届かない。
砂時計を持たない者の背中には、見えない影のような時間がまとわりついていた。
少女が一歩踏み出すと、足元の砂がじわりと音を立てる。
そこかしこに、割れた砂時計の残骸が転がっている。
「時間を失った者たちの末路だ。」
クロノスの神の声が、耳元に響いた。
少女が進むにつれ、街の人々は彼女に視線を向けた。
その目には、憐れみ、怒り、そして懐かしさが混じっている。
「……あなた。」
低く絞り出すような声がした。
振り向くと、そこにはやせ細った男が立っていた。
彼の腕には砕けた砂時計の残骸が絡みついている。
「覚えているか?あの日、お前が——」
男の言葉は続かなかった。
少女は何も言えず、ただ立ち尽くした。
彼の目に浮かぶのは、過去の記憶。
それは少女が避けてきた罪の一端。
街の奥へ進むと、広場の中央に朽ちた時計台がそびえていた。
その下には、焚き火を囲む数人の影。
彼らの腕にもまた、砕けた砂時計の名残が刻まれている。
「ようやく戻ってきたか。」
声をかけたのは、黒い外套をまとった年配の女性だった。
その目は少女の奥底を見通すように鋭い。
「お前の罪を、私たちは忘れていない。」
彼女の言葉に、少女の心がざわめく。
「……私の罪?」
「そうだ。お前は砂を壊し、時間を奪った。」
少女の記憶が断片的に蘇る。
妹の泣き声、砕けた砂時計、そして裁定の日。
「だが、裁かれた罪だけが全てではない。」
女性は静かに言葉を続けた。
「お前の旅の中で、それを思い出すだろう。」
少女は小さくうなずいた。
罪を知るための旅。
過去の自分と向き合うための道のり。
罪人の街の灯りが、彼女の影を長く伸ばしていた。
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