第3話 忘却の湖
少女は影の砂商人の店を後にし、薄暗い森を進んでいた。
砂時計を砕かれた理由を知るためには、忘却の湖へ向かう必要がある。
それは、記憶を映すと言われる神秘の湖。
「湖面に映るのは真実のみ。偽りの仮面は剥がれ落ちる。」
砂商人の言葉が脳裏に響く中、少女の足元には枯葉が舞い散り、湿った土の香りが漂っていた。
やがて霧が立ちこめ、視界がぼんやりと曇る。
その先に、静かに水を湛えた湖が姿を現した。
湖面は鏡のように滑らかで、風が吹いても揺らぐことはない。
少女は恐る恐る湖のほとりに膝をついた。
水面を覗き込むと、そこには見慣れた自分の顔が映っていた。
だが、次の瞬間——
ざわり
湖が波紋を広げ、少女の顔は歪んでいった。
代わりに映し出されたのは、幼い頃の彼女だった。
笑顔の少女は、両手に小さな砂時計を握りしめている。
それは、まだ美しい金色の砂を湛えていた。
「これが……私?」
少女は無意識に問いかける。
湖面の中の少女は幸せそうに笑い、誰かと楽しそうに言葉を交わしている。
その隣には、もう一人の子供の姿。
——妹。
「お姉ちゃん!見て!私の砂時計も輝いてるよ!」
屈託のない笑顔の妹。
その瞳に映る憧れと信頼。
だが、次の瞬間。
映像は激しく揺れ動いた。
少女の手から砂時計が落ち、地面に叩きつけられる。
ガシャーン!
黄金の砂は舞い上がり、地に散った。
「……どうして?」
悲鳴のような声が響く中、湖面の映像は薄れていった。
目の前の景色が元に戻ると、少女は静かに湖を見つめていた。
「私が……砂時計を……砕いた?」
胸の奥に押し込めていた感情が、徐々に蘇ってくる。
それは後悔か、罪悪感か。
涙が頬を伝う中、少女は震える手で湖面に触れた。
すると、湖は再び揺らぎ、今度は別の場面を映し出した。
そこにいたのは、王国の裁定者。
「砂時計を砕いた者は、時を失う。過ちの代償として。」
冷たく告げられる言葉。
「しかし、あなたが再び砂を取り戻したいと願うのなら——」
その声と共に、湖面の中の少女はひとり膝をついた。
「……過去と向き合え。」
映像が消え、湖は静寂を取り戻した。
少女はゆっくりと立ち上がる。
彼女の手の中には、まだ砂一粒も流れていない影の砂時計が握られていた。
「私の罪は……まだ終わっていない。」
彼女は再び歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます