そこわかれ-9
「……おい、おい!」
肩を揺さぶられてハッと目を覚ました。
目の前にいる刻人をぼんやりとした目で那智は見る。
「刻人さん……」
「お前、顔色悪いぞ」
熱をはかるように刻人は那智の頬に手を当てる。
「冷えたんじゃないのか。こんなところで寝るから。熱はないみたいだが」
「寒気がする……」
ゾクゾクとしたイヤな悪寒があった。
体が怠いと那智は思った。
先ほどまでとてもささくれた気分だったのに刻人のそんな姿を見ていると毒気を抜かれる。
「……お前、なにかされたか?」
「……なにも」
「さっきそう言えばあの家主さんを見て驚いてたよな。前に会ったことでもあったのか?」
「んんいや……。実は、今日のここにくる前に」
那智は女がやってきたこと。依頼だと思ったから中に通したこと。何やら話し込んだ気がするが気づいたらこの家に着いていたことなどをかいつまんで話す。
考え込むように聞いていて、刻人はぽつりと言った。
「お前が招き入れたんだな」
「入っていいって……」
「よくないな……」
刻人はまた黙り込んでしまった。
やっぱり怒っているのだろうか。
また那智が複雑な顔をしているのを雰囲気で感じ取ったらしい。
「そいつどこかに触ってきたか?」
記憶を探る。
そういえば。
「夢かもしれないけど……。ここにおぶさってきた」
背中を指差す。
「夢かもしれないっていうのは?」
「刻人さんがきたときには、あの女消えてたから」
刻人の指が髪を滑り、うなじのあたりに触れた。
「……ここか」
電気がはしったような感触がした。
「うっ……」
「大丈夫か?」
「うん……。ちょっと変な感じがしただけ」
刻人は難しい顔をする。
「たしかに……。なんらかの痕跡はありそうだ。気に入られたのかもしれないな」
「マジ勘弁して……」
そう言う声にも力が入らない。
体がとにかく重い、と那智は感じた。
刻人はなにかを決意したようにうなずく。
「じっとしてろ」
「なに……?どうするの」
「お前にかかった呪いを俺に移す」
那智は心に
「でもそんなことしたら」
「大丈夫。俺には耐性があるから」
それでもまったく無事というわけにはいかないだろうに。
止めても刻人は聞いてくれないだろうことはわかっていたけど、迷惑はかけたくなかった。
「ごめん」
こうなったのは俺のせいなのに、と那智は思う。
「謝るな」
刻人の手がうなじに触れる。
手をしばらく押しつけていた。
体温の低い刻人の手は冷たいのに、しばらくすると悪寒が消える。
「……これで大丈夫だろう」
那智はソファにもたれた。
いやな気分は和らいでいた。
体もずいぶん楽になった気がする。
「刻人さん……」
刻人の顔には脂汗が浮いていた。
「大丈夫?」
「平気だ。このところ仕事で渡り歩いていたから少し疲れがたまっているだけだ」
強がっていても、具合が悪そうなのがわかる。
「ちょっと、水を取ってくれるか」
うなずいて立ち上がると、那智は冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取った。
冷蔵庫にはギッシリと水がつまっている。
いつものことだ。
反対に食べ物の類は入ってないので、本当に刻人の生活習慣が不安になる。
水を一気飲みすると、刻人は息をついた。
顔色はいくらかましになっていた。
ソファに深くこしかけて背をそらすように上向いた。
「そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫だ。言っただろ、耐性があるって」
仕事がら、刻人が怪異に対して弱くないのは知っている。
それでも心に不安がよぎらずにはいられない。
「少し、休ませてくれ」
低い寝息が聞こえてきた。
こんな状態でよく眠れるものだと思うが、よっぽど
ソファの端に置いてあったブランケットをかける。
那智も寄り添うようにソファの横に座った。
しばらくぼんやりしてそのままにしていた。
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