そこわかれ-8

 廃ビルに着くと那智は肩で息をした。

 乾いた笑い声を漏らす。


「ハハ……。なんで俺こんなところにきてんの。刻人さんに逆ギレしたくせに。バカじゃない」


 今日、刻人は帰ってくるだろうか。

 ここは刻人の事務所兼寝床といったところで家ではない。

 決まった住所を持たずにのらりくらりとあちこちを渡り歩いているそうだ。

 それこそふらふらと。

 那智はソファに崩れ落ちるように横になる。

 眠気が襲ってくる。

 なぜかとても疲れていた。

 指の先まで重い気がする。

 そのまま那智は急速に意識を手放した。


 待って。

 おいていかないで。

 狭くて苦しくて絶望が襲ってくる。

 岩をかくように爪を立てても登っていけない。

 それでも必死に上を目指した。

 望みは断ち切られる。

 手が滑った。

 体が落下していく。

 井戸の底に。

 底のない闇の中に。


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