第4話

【ユリ視点】



 突如現れたはしごですらアイちゃんを驚かすことはできなかったらしく。


 どこまでも冷静に分析しているみたいだった。


 私が、もう大丈夫だからと、もごもご言うと。


 アイちゃんは、私の口から手を放してくれた。


「ね、ねぇ。このはしごって、もしかすると、もしかするかもだよね?」


「うん。ボクとしては、ボク自身で安全を確認してからって思ってるけど。ユリはどう思う?」


「ごめんね。アイちゃんの気持ちは分かるけど。ここまできたら私の目で確認したい」


「分かったよ。じゃあ、今回はユリにゆずるよ」


「ありがとう、アイちゃん」


 そう言って、はしごをのぼった先で見た光景は――?


 またしても意外なものだった。


 周りは昼間みたいに明るくて、赤い絨毯が敷き詰められている。


 踏みしめて見るとふかふかしていて気持ちがいい。


 奥行きは分からないけど幅は十メートルくらい?


 そこから外は、外の景色になるのかな?


 それらは空色一色でどこまで続いているのかすら見当もつかない。


 上を見ても太陽らしきものもなくて。


 なんでこんなにも明るいのか理由が分からない。


 そうやって私が固まっていると、下からアイちゃんの声がする。


「ユリ、どんな感じだい?」


「ごめんね。やっぱり私じゃ上手く説明出来ないからあがってきてくれるかな?」


 すると、アイちゃんは、待ってましたとばかりにのぼってきて。


「なるほど、今度は奥に来いって事か……」


 相変わらず冷静な言葉を並べてくれた。


 そして、そうするのが当然とばかりに手をつないでくれて奥に引っ張って行ってくれる。


「ねぇ、アイちゃん。この先に何があるのかな?」


「さすがに、ここまでこった演出をしてくれてるんだ。きっと宝箱の一つくらいはあるはずさ」


「いきなり、こわい化け物とか出てきたらどうしようとか思わないの?」


「なるほど。ユリは、そんな事を気にしてるんだ」


「と、当然だよ。この絨毯だっていつ落とし穴に変わるか分からないし。強い風とか吹いたらそのまま奈落の底まで落っこちちゃいそうだし」


「大丈夫さ、何があってもボクがユリを守るから」


 凛々しい笑みと、信頼に値する青い瞳。


 一部の女生徒から王子様と呼ばれているのが良く分かる。


 もっとも今は、黒いフードを目深に被った不審者だけど……


 でも、頼もしいのも確かだ。


 そんな感じで、十分くらい歩いたと思う。


 そこには、宝箱の代わりに金ぴかの玉座があった。


 そして、その玉座には座っている者はおらず。


 代わりに、スクロールが浮いていた。


 スクロールが開かないようにしているリボンは金色で――


 今まで見たこともない色だった。


 例えば、ピンクのリボンで閉じられた物なら傷の手当て用で。


 緑色なら、お腹の痛みとかを緩和する、痛み止め用。


 青色なら、解熱効果と言った感じで――全て私もアイちゃんも習得済みの魔法だ。


 それらとは、明らかに違う色のリボンで閉じられたスクロール。


「ね、ねぇ、アイちゃん。これって触っても大丈夫かな?」


「怖いなら、ボクが開いて見るけど?」


「う~。怖いものは、怖いけど……」


 トウヤちゃんのためだもん!


 私が、やらなくっちゃダメだよね!


「大丈夫。何があっても骨は拾ってあげるからさ」


「絶対だからね。私が化け物とかになっちゃても見捨てないでね」


「ふふふ。ユリ。君のためなら何度でも言うさ。どんな君でも愛し続けるってね」


 たまに、ちょっと考え方が重いかなって思う時もあるけど。


 やっぱり、アイちゃんは、どこまでいってもアイちゃんだ。

  

 うん。


 私は、一人ぼっちになんてならない。


 大好きな娘を助けるために、スクロールを手にして。


 金色のリボンを引っ張って外す。


 すると今までと同じように羊皮紙には、なにやら読めない文字がいっぱい書かれていて。


 って!


 え?


 文字が虹色に光り出して――


 その文字が私の目の中に入り込んでくる。


 ――そして。


 全ての文字が私の目の中に入るとスクロールは消えた。


「私、新しい魔法覚えたみたい」


「そうだね。もしも習得済みの魔法なら何も起こらないはずだからね」


「それにしてもビックリしたよ。まさか文字が光ったりするとは思わなかったから」


「きっと特別な魔法だからじゃないかな」


「うん。どんな魔法なのかは分からないけど……って、ん?」


「どうしたんだいユリ?」


「たぶんだけど、これ身体異常の回復だと思う」


「なるほど、特別な魔法は、どんな効果があるのかも脳内に刷り込まれる仕組みなのか」


「やったよ。アイちゃん。これならトウヤちゃんの病気を治してあげられるかもしれないよ」


「うんうん。これで無事に脱出できればミッション完了といったところだろうけど」


「え、何かでたの?」


「いいや。ただ迷宮が、このまま素直に帰してくれるのかなって思ってね」


「う~。怖いこと言わないでよ~」


 私は、何も起こりませんように!


 って、強く祈りながらはしごのあった所まで戻って来たところでフリーズしちゃった。


 だってね……


 ないの、はしごが!


「ふむ、なるほど。これはもう諦めて飛び降りろってことなのかもしれないねぇ」


「そんなぁ……」


 痛いのも嫌だけど……


 おっきな音をたてて捕まっちゃうのも嫌だ!


「まぁ、ここはボクに任せてよ」


 そう言って、アイちゃんは、私をお姫様抱っこする。


「え? もしかして、このまま飛び降りるの?」


「あぁ。そうさ、これなら二人そろって足を骨折。なんて落ちにはならないはずだからね」


「だ、だめだよそんなの」


 そんな私の意見なんか聞く耳もちませんって感じでアイちゃんは、


「それじゃあ、いくよ。っと」


 私を抱っこしたまま、飛び降りてしまった。 

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