第3話
【ユリ視点】
どこに、どのような形でスクロールがあるのかはさっぱり分からなかったけれど……
少なくとも、私達が隠れている奥にはなかったのか。
アユミ先生の足音が近づいてくることはなかった。
教頭先生達が出ていくと、
「お疲れ様でした!」
先ほどと同じように男の人の声がした。
きっと、これで今日のスクロール集めは終わったんだろう。
「じゃぁ、まずは確認といこうか」
「うん」
小さいながらも、声を弾ませるアイちゃんに手を引かれる形で――いつもスクロールが置かれている場所へと向かう。
体感的には、いつもの五倍以上の距離を歩いた感じで。
見た景色は、よく見る光景だった。
本を借りる時に使うカウンターとは反対側にある大きな棚にスクロールが大量に積まれている。
そのスクロールは羊皮紙で出来ているらしいのだが。
書かれている読めない文字を目に焼き付けると魔法習得となり。
なぜか、消えてしまう。
そして、その時から魔法が使えるようになるのだ。
ちなみに、いま私達が使える魔法は、簡単な傷を治癒したり。
体温が高い人の熱を少し下げたりする事ができるといった感じで。
さっき教頭先生が言っていた通り、医療の現場では少なからず役に立っているみたいだ。
いかにもな呪文とかそういったものもなくって。
痛いところとかに手を当てるだけだから。
魔法イコール手当って感じで広まっている。
つまり、今までに見つかっているとされる魔法は限られていて。
その種類も、多くないっていうのが一般常識だったりするのだ。
「どうやら、ここにある在庫が減ると今日みたいにスクロール集めをしなきゃいけないって流れなんだろうね」
おっきな棚を見上げながらアイちゃんが言う。
「そうみたいだね……」
「だが、スクロールがどこから来るのかは、だいたい分かった」
「でも、それだけだよね?」
「いいや。この迷宮と化した図書館の隅々までアユミ先生が探し回って集めたとは思えない」
「う、うん。確かにそうだけど……」
「つまり、二階や――さらにその上。屋根裏部屋にも可能性は眠っているってことさ」
「そう、なのかな……」
「どうしたんだい、ユリ? ずいぶんと落ち込んでるじゃないか?」
「だって……」
「探すだけ無駄だって思っちゃったってところかな?」
「うん……」
「だったら、試しに二階に行ってみようじゃないか」
アイちゃんが、こんなにも積極的になるのは珍しい事じゃない。
なぜか、私の事になると変なスイッチが入っちゃう感じなのだ。
だから、きっと今もそんな感じなんだろうと思って。
深く考えないことにした。
「分かったよ。屋根裏部屋まで行ってみよう」
――二階にのぼってすぐにおかしな事に気づいた。
それなりに広いんだろうな~。
くらいに考えていたのに……
思っていた以上に教室の数が増えてるのだ!
っていうか、あまり明るくないせいでどこまで教室が連なっているのか見当もつかない。
「ふむふむ。一階は、全体的に広がってる感じだったけど。二階は縦に長いかんじなのか」
「確か、教室として使ってたのって右側にある二部屋だけだったよね?」
「うん。ボクの認識もそうだったと記憶している」
二人とも同じ答えなのだからこの状況がおかしいだけのだろうけど……
「左側には、教室なかったはずだよね?」
「うん。確か左側は書庫だったはずだ」
やっぱり、アイちゃんと私の認識にずれはない。
落ち込んでいた私の心に希望の灯がともる。
「もしかして、この教室のどこかに見たこともないスクロールがあったりするのかな?」
「ああ、その可能性はじゅうぶんあるさ」
「じゃ、じゃあ、とりあえず近いところから開けてくね」
「あまり大きな音をたてないように気を付けるんだよ」
「う、うん」
私は、ドキドキしながらも慎重に教室のドアを開けると――?
そこには、何もなかった……
「なるほど、教室の広さは普通なのか」
「や、椅子とか机とかも無いっておかしくない?」
「言ったろ。ここは迷宮だって」
確かに、そんなことも言ってたと思うけど……
「ねぇ。アイちゃんは、なんでそんなにも冷静なの?」
「ユリが思ってるほど、冷静じゃないさ。今もワクワクを無理に押し殺してる感じだしね」
ワクワクかぁ……
きっと、頭のどこかのネジが緩んじゃってるんだね。
でも、おびえて足引っ張られるよりは何倍もマシなはず!
何が飛び出すか分からないけど……
こうなったらやけくそだ!
「じゃあ、左側の教室はアイちゃんに任せるよ。私は、このまま右側の教室を調べてくから」
「そうこなくっちゃ。実はボクも自分で開けて見たかったんだよね」
そうして私達は、次から次へと教室のドアを開けては中を確認していった。
んだけど……
結果は、全て空振りに終わっちゃった。
「あとは、屋根裏部屋だよね?」
「そうだね……と、言いたいところだけど。ここまで来るまでに屋根裏部屋へと続くはずのはしご、無かったよね?」
「うん……」
そうなのだ、ここまで来たら最後の希望である屋根裏部屋も見ておきたかったけど。
それらしきはしごが無かったのだ。
これはもう諦めて帰れって事なのかもしれない。
そう思って、引き返そうとした時だった!
私達の目の前に、突然はしごが現れたのだ!
「――っぇ」
思わず、声をあげちゃいそうになった私の口をアイちゃんが反射的にふさぐ。
「なるほど、何も無いと見せかけておいて時間差ではしごが現れる仕組みになってたのか」
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