後編
「マサトォ……お前のせいで散々な目にあったじゃん……」
「いや、知らねぇよ!」
僕を間に挟んでマサトとヒロキは何やら言い争っている。
今は給食の時間で、2列ごとに席をくっつけていたので僕が間に挟まる形となっている。
「二人とも仲いいね」
ちょうど僕の対面に座っている幼馴染のトーカちゃんは興味深そうに僕へ言った。
「何の話してるの?」
「さぁ……」
僕は苦笑いしながら曖昧に答えを濁す。
――女の子相手に言えるわけがないだろ。
そんなことを思いながら、僕は取って貼り付けたような笑みを浮かべる。
学校に成人向け雑誌を持ってきたがサッカーボールにされたバカと、その紙切れをクラス中の男子に見せびらかした挙げ句、先生にそれを回収されたアホのことなんて説明すればいいのだろうか。
「てか、なんで僕の机にアレが入ってるの?」
「だから、知らないって! 俺あれ以来学校に持ってきてねぇもん!」
マサトの話を信じるのであれば、ヒロキの机に雑誌の断片を入れたのは別人物ということになる。
というか、マサトがヒロキの机にそんなものをいれる動機がそもそもないのだ。それは他の人にも言えることだが。
そもそも、何故切れ端が今になって見つかるのだろうか。
あのサッカー大会の数日後ならともかく、もう1ヶ月以上経過している。
色々と考察してみたが、僕には犯人の動機が全く理解できなかった。
「放送なってる」
トーカちゃんの声で僕は現実に引き戻された。
『3年学年主任のイワヤマです』
珍しい。この時間は放送委員が選んだオススメの曲が流れているはずだ。
なのに、学年主任のイワヤマが出てくるなんて。
これから一体何の発表があるのだろうか。
『これから皆さんに話さなくてはいけないことがあります』
イワヤマの厳かな口調に教室の雰囲気がザワザワと揺らめき出す。
『本日、3時間目の休み時間。3年2組の前でいかがわしい漫画の切れ端が落ちていたのを先生方が発見しました』
あっ、そう来たか。
担任が何も言及しなかったためお咎めなしかと思っていたが、全然そんなことは無かった。
しかし、昼休みに放送を使うような手段にでるとは予想だにしなかった。
周りを見渡すとマサキやヒロキを始め、キャッチボールに参加していた男子などが皆青ざめた表情をしていた。
皆、まさかこんな大事になるとは思っても見なかっただろう。
『女子生徒の皆さんに注意喚起します』
『もしかすると、この学校にはそういう衝動を抑えられない生徒がいるのかもしれません。現にこうやって廊下――人のいるところに置くということはそれを誇示している可能性があります。なので、女子生徒の皆さんは自身の安全に十分注意してください』
「ケホッケホッ!」
思わず飲んでいた牛乳を吹き出しそうになった。
一体全体どうしてこんなことになるんだよ!
『また、何か情報を持っている生徒は先生に教えて下さい。以上です』
そう言って、放送は切られた。
放送が終わった後、しばらくの静寂が訪れる。
静寂というより、事情を知っている者は皆笑いをこらえていたのだろう。
僕やマサキやヒロキも俯いて必死に笑いを堪えていた。
学校にそういう本を持ち込むのも大概だが、先生方の対応もあまりも大げさな気がする。
いや、平常時であれば正しいのかもしれない。
だが、今回は誰一人悪意があってやったわけではない特殊な状況だ。
奇行と勘違いがこうも大事を巻き起こすなんて。
「今笑ってるヤツ何か事情を知ってるみたいだなぁ!」
担任は怒り心頭といった表情でこちらを見てくる。僕はポーカーフェイスを貼り付けて、僕は何も知りませんアピールに必死だった。
もし担任に目をつけられて、こんな話を真面目に話したところで、きっと信じてもらえるわけがないからだ。
僕達――事情を知る者は、先生の鬼のような視線を掻い潜りながらなんとか給食の時間を終えた。
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