『続 アブドラジル』 2
マー・シー・ヤンが出社しないため、課長は昼前になって電話を掛けたがつながらなかった。
役立たずだが、無断欠勤する人間ではない。
昼休みに再度掛けてみたが、やはり、つながらない。
『おーい、きみ。ちょっと見てきてくれないか。』
声をかけかれた係長は、まったく乗り気ではなかった。
『やつのアパートは、不気味ですからね。』
『ぶっぶっ〰️〰️! 教育的指導。きみの部下だろ。』
『はいはい。』
マー・シー・ヤンより年下だが、エリートの係長は、かなり忙しかったのである。
しぶしぶ、地下鉄に乗って、場末の駅に向かった。
🚃
そのアパートメントは、かなり古い建物である。
20世紀の後半中期時期に建築されたもので、常設デジタル回線も衛星通信施設もなく、ま、なんにもない。
よくぞ、あの大地震も乗り越えてきたと、賛嘆しなければならないような、古いが頑丈な建物だった。
大家さんは、70歳前あたりの、かなり上品なご婦人である。じつは、資産家であった。
配偶者は、さる大学教授だったが、10年ほど前に他界してしまった。
なんの特別な仕掛けもない古いアパートだが、耐震強度とかは、建築の専門家だった教授の肝いりで作られたと言うから、なかなかのものだったようである。
いまの若者には受けが悪いが、家賃は安い。
通称は『ゆうれい壮』だが、この『ゆうれい』は、『優麗』と書くのが本当らしい。
鍵は掛かっていて、呼び出しても応答がない。
ひとの気配もしないし、と言って、べつに怪物がいるようすもない。
仕方がないから、両どなりに声をかけたが、どちらも留守みたいである。
さて、どうしよか。と思っていると、大家さんが現れたのである。
『どちらさま?』
『あの、マーシーヤンくんの、会社のものであります。けさ、出社しないものですから、来てみたのです。』
『あらま。昨日は朝出て行きましたよ。いつものように。そういえば、帰ってきた様子がなかったのですよ。いつも、帰ってきたら、まず、ショパンのバラード第1番を弾くのですよ。これが、まあ、うまいのよ。彼は、天才なの。でも、社会は認めないけれどね。』
『ば、ばらーど、ですか。』
『はい。バラード第1番ト短調作品23、ね。あなた、お好き?』
『あ、いやあ。その方向は、ちょっと。怪獣のバラード、くらいしか。はい。』
『まあ。あなた、エリートさんね。』
『はあ。まあ。』
『やっぱりね。でも、心配です。あの方、ちょっと、おっちょこちょいといいますか、いつも、お空を見て歩いてるような人だから、どこかに落っこちてないか、かなり心配です。わたくしも、捜索隊を作ります。詩作クラブのみなさんに依頼をだしましょう。20人はいますから。なに、年よりばかりだから、なにかあった方が励みになるから。もと、幹部防衛隊員さんや、学長もした大学教授さんや、警察所長さんもいらっしゃるし。』
はからずも、大掛かりな話になったのである。
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