1-7
とはいえ、文句を言っても始まらない。
私はタントスさんと手分けをして、本の山に取り掛かった。職人が留守にしているうちは、他にやる事もないしね。
近くにあった本を手に取り、ぱらりと捲ってみる。
私の知る本とは、感触も質感も全く異なる。印刷技術とかどうなっているのかな? 魔法があると、そういった技術は逆に発展しなくなったりするのだろうか?
想像という名の現実逃避は尽きない。しかし、そうも言っていられないので読み始める。
……おぉぉぉ! これは、つまり、こうなって……
「わかんね」
秒でギブアップが口から零れた。
何だろう。専門書?
文字は全然見たことないものだけど、何故かスラスラと読むことはできる。
そして、そのまま後頭部から抜け出ていってしまっているのではないだろうか? 何も残らない。
無理をして数ページ程読み進めてみたのだが、解ったのは『私には無理』という現実だけだった。
「タントスさん、ごめんなさい。私、この仕事向いてない」
情けなさと申し訳ない気持ちで半ベソになりながら声をかけると、タントスさんも苦笑を浮かべていた。
「ははは、私も向いていないようです」
神様! ワーカーの人選間違ってるよ。
「でも、まずは隠れるとしましょうです。職人が帰ってきたようです。カレンさんにも物質透過を付与しましたので、床に触れて通り抜けるイメージを浮かべてくださいです」
「は、はい」
突然の事に、私は慌てて床に触れて、通り抜けるイメージを浮かべてみる。
「うぉ!」
まるで床に穴でも開いたかのように体重を感じなくなり、そのまま下の地面にすとんと落ちた。
危ない! 床下が高くなくて良かった。変な物が落ちてなくて良かった。これって、使いどころ気を付けないとまずい能力なんじゃない?
いや、今はそれよりも。
「タントスさん」
私は小声で呼びかける。
「はいです。密談の能力を付与しますです。これで、私に向けて話した内容は周囲には聞こえなくなりますので、声量気にせずに話してくださいです」
おぉ、便利!
尚更、魔法陣が読み取れる能力を貸してくれなかった事に憤りを感じる。神様め!
「どうやら人は複数みたいです。全員がお仕事の対象なのかわかりませんが、こっそりと会話を聞いてみましょうです」
頷いてそれに応えると、意識を上の方へと向ける。
『もうやめなよ、お父さん。こんな事やって、お母さんが喜ぶとでも思ってるの?』
『そんな事は思っとらん。大体、死んだ人間が喜ぶわけないだろうが』
上からは激しく言い争う声が聞こえてきた。
若い女性の声と、しゃがれた男性の声。
『わかっているなら、ちゃんとしなよ。まだ持っているんでしょ? あの魔法陣の魔導書。あんな物があるから、お父さん囚われたままなんだよ』
『あんな物とはなんだ! あれは、母さんが研究していた魔法陣だ。俺はその研究を引き継いでいるだけだ』
『もう、お母さんは死んだんだよ? いい加減に前を向いてよ!』
『黙れ!』
『あの魔導書を渡して。私が処分してくる』
『駄目だ!』
口論は激しくなっていく。
そんな二人の会話から、私は一つの想像を思い浮かべていた。
「あの魔法陣。もしかしてあれかな……」
「何かわかったのですか?」
「死者を生き返らせる魔法。人体錬成って呼ばれてた」
昔読んだ漫画のコマが蘇る。
「カレンさんの故郷の技術ですか? でも、先ほど魔法は妄想だと」
「うん。漫画の、物語での話。母親を失った子供が、悲しさや寂しさから母親を蘇らせようとするの。上手くいかないんだけどね」
「それはまた、切ないお話ですね」
「この職人さんも、失った奥さんを取り戻そうとしているんじゃないのかな? それを、娘さんが止めようとしている」
私の世界に魔法はなかったけど、家族を失った事に対する悲しみは、この世界でも同じなんじゃないだろうか。
「可能性はありそうです。しかし、先入観で判断するのは危険です。まずはもう少し状況を探りましょうです」
「そうですね」
私とタントスさんは、そのまましばらく意識を上に向けたままで居た。
『魔導書は何処なの!』
『もういい、お前は出ていけ! お前には関係ない!』
そんなやり取りを最後に、親子の会話が聞こえなくなった。
そして扉が開く音と、すぐに乱暴に閉められる音が響いた。
「娘さんが出ていったようです。父親の方は、寝室に入りましたです」
端末を見ながらタントスさんが言う。
妻を生き返らせようとする父親と、止めようとする娘。何となくだけど、私は娘さんの方が正しいように感じていた。
でも、仕事はあくまでも魔法陣の完成を手伝う事だ。
本当に手伝って良いのだろうか?
早速、さっきタントスさん言われた『神様の指示であっても従わなくて良い』という言葉が、頭の中でぐるぐると回っていた。
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