1-8

「あの親子、大丈夫でしょうか?」


 仕事の内容とも違うし、私が首を突っ込む事じゃないのかもしれないけど。やっぱり気になってしまう。


「わかりませんです。ですが、少なくとも娘さんは父親を止めたいようですね。それがどういった理由からかは、わかりませんですが」


「そうですよね……」


 前に読んだ漫画の世界だったら、娘さんの味方をして生き返らせるのを止めたいと思う。けど、ここはあの漫画の世界じゃない。もしかしたら上手くいくのかもしれない。それなら、勿論父親の味方をしたい。私はどっちつかずだ。


「とりあえずは、魔導書を探す必要がありそうですね」


 タントスさんの言葉で、私は現実に戻される。


「魔導書を見つけたらどうするのですか?」


「あの魔法陣に関する魔導書ならば、完成させるうえで非常に重要です。おそらく、その内容を周囲にある本の中身で補えば、魔法陣を完成させられるのではないかと予想していますです」


「娘さんに渡すのではなく?」


 思わず聞いていた。


「そうです。神様の仕事内容は職人の手伝いです。今のところ私は、まだそれに反するような理由を持っていませんです」


 そう言って一呼吸置くと、タントスさんは少し苦笑を浮かべて続けた。


「でも、カレンさんはカレンさんの思うように動いていいと思いますです。ワーカーによって違いますが、私は神様の言う事は妄信するべきではないと思っていますです。必要に応じて判断していくのが大事なのではないかと……ワーカー失格かもしれませんですが」


 そうか。タントスさんの言う『神様の指示であっても従わなくて良い』というのは、十分な思慮を重ねたうえで、ということなのだろう。例え仕事が失敗に終わろうとも、納得できないのであれば。


「私なんかの考えで良いんでしょうか? まだ、初仕事の見習いなのに」


 問題はそこだよね。この仕事の経験は当然ながら皆無だし、そもそも人生経験だって浅すぎる高校生なのだ。


「良いんです。少なくとも、私はそう思うです。そもそも、神様の指示に曖昧な部分があるのが原因です。慣れない点やわからない事があるのが当たり前であり、それをサポートする為の私の存在です。そして、先程も言いましたが忘れないでください。どうなったとしても、それは神様の責任なのです」


 不安だらけの私の言葉に、タントスさんは晴れやかに笑って答えた。

 その笑顔は、ファンシーなタントスさんにはよく似合っていた。

 ……普通の亀だったらどう見えただろう?


 まあとりあえず、現段階で考えられる事をしっかりと考察してみよう。

 父親は実行しようとして、娘は止めようとしている。神様は職人の手伝いと言ってるのだから、これは父親の手伝いと考えて良さそうだ。


 私たちが手伝うことによって失敗するのが神様の望み?

 いや、それはない筈だ。仕事の内容に『失敗させろ』と入っていない限り、普通は成功するように努力する。じゃなくて、だもんね。

 だから、神様は成功を望んで手伝うよう指示していると考えて良いはずだ。


 つまり、あの魔法陣は私たちの協力があることで、上手くいく可能性が高い。そう、今のところは言えるんじゃないだろうか?


「タントスさん、魔導書を探しましょう!」


 私がそう言うと、タントスさんが頷く。


「わかりましたです。父親は寝室の方で眠り始めたようですが、いつ起きてくるかわかりません。このまま床下に潜んで、本を一冊ずつ引っ張り込んで確認していきましょう」


「はい!」


 元気よく返事をして、気合いを入れる。

 そしてまた苦行が始まった。

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