1-5

「この屋敷ですね」


 歩くこと数分。私たちは、ある家の前に着いていた。

 造りは周囲の家とさほど変わらない。ただ、数軒分はある大きな建物だ。


 と、横に並んでふと気が付く。タントスさんが、ローブを被った普通のモブっぽい人に見える! のだけど、よく見るとやっぱりファンシー亀だ。

 面白いけど、何だろうこれ?


「ん? あぁ、認識阻害ですか。パッと見わからないですよね。でも、カレンさんは私の正体も知っているので、よく見ると本来の姿で見えてしまうのですよ」


 私の視線に気が付いたタントスさんが説明してくれる。

 すごーい、便利だ。


「さて。センサーだと、今屋敷の中には誰もいないようです。とりあえず探ってみましょうです」


 タントスさんは入り口の前に立つと、身体で隠すようにして、その手で扉に触れた。すると、その手は何の抵抗もなく板にめり込んでいく。

 おぉぉ、壁抜けだ! 凄い、手品を見ているみたいだ。

 ……ん?


「壁抜けできるなら、そのまま抜けた方が早くないですか?」


「どこで誰が見ているかわかりませんので、こういう場面では最小限の能力で行った方が安全なんです」


 なるほど、勉強になる。色々と悪い事にも応用できそうな……いやいや。

 そして、カチャカチャと小さな金属音を響かせてから、扉が開いた。

 周囲の人通りをちらりと確認してから、タントスさんが中へと入っていく。


「お邪魔します……」


 私も、無意識にそう呟いてから後に続いた。


 中は真っ暗だった。窓が閉め切られたままで、外光が一切差し込まない。

 本当に人が居るのか? 空き家じゃないのか? と思えるような状況の中、とりあえず電気……は、この時代なさそうだ。ランプ? ランタン? そんな感じのものを探さないと。


「これを使ってくださいです」


 タントスさんから細長いものを手渡される。これは!


 文明の利器懐中電灯だ。


 何かを裏切られたような気分に浸りながら、私はそのスイッチを入れる。

 パッ! と音を立てるように明るく照らし出された先。最初に目に付いたのは、本の山だった。

 そのまま左側を照らしても、右側を照らしても、見えてくるのは本。

 本、本、本、本、本、本、本。


「これ、全部本?」


 もしかして、個人宅じゃなくて本屋だったの? 


「そうみたいですね。仕事の説明には職人の手伝いとあったのですが、学術研究の人かもしれませんですね」


 タントスさんも別のライトで本を照らしながら答える。

 神様の指示、適当過ぎない?

 とりあえず靴は作らずに済みそうだけどさ。


「まずは先に進んでみましょうです。何の職人かわからないと、手伝うこともできませんです」


「はーい」


 私は、タントスさんの後に続いて本の間を歩く。

 家の中の造りは、大きさの割に複雑なものではなかった。

 台所というよりは、炊事場と言った方がしっくりしそうな竈のある部屋。

 ベッドルームがふたつ。大きなベッドが一つある部屋と、二段ベッドがある部屋が一つ。単純に考えると四人家族か?

 居間と呼べそうな部屋が一つ。中央にはテーブルと、椅子が三つ。やっぱ三人家族か?

 そしてトイレと、異様にだだっ広い部屋が一つ存在していた。


「なにこれ、体育館?」


 だだっ広い部屋の入り口に立ち、私は思わずそう呟いていた。

 部屋の中央には何も置かれてなく、唯々暗い空間が広がっている。

 隅に目を向けると、おなじみ本の山積みが見て取れる。

 実は本作りの職人なんじゃない?


「困りましたですね。これでは、何の職人なのかわからないです」


 タントスさんもお困りの様子だ。

 神様、もう少し詳細な指示はいただけないのでしょうか?

 何てことを考えながら、広い空間へと踏み出した私は、ライトによって照らし出された床に、思わず息をのんだ。


 何かの模様が刻まれている。

 ライトを向けると、その模様がずっと奥の方にまで続いているのがわかる。

 この模様は知っている。実物を見るのは初めてだが、ゲームやアニメや物語の中で幾度となく見てきたものだ。

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