第2話 双魂の少年が見た夢

 静寂の中に、青白い霧が揺らめいている。どこまでも続く闇の中で、二つの光が浮かび上がっていた。


 一つは穏やかに瞬く銀の光。月のように静かで、すべてを見守る眼差しを持っている。

 もう一つは、揺れ動く金の炎。太陽のように眩しく、周囲を巻き込みながら燃え続ける。


 「お前はどちらを選ぶ?」


 声が響いた。どこからともなく、少年の心に問いかける。


 ――選ぶ?


 彼は戸惑った。二つの光は彼の目の前で交差し、さらに強く輝く。


 「選ばなければならない。このままでは、お前の魂は引き裂かれてしまうだろう」


 だが、少年は答えを出せなかった。銀の光も、金の炎も、どちらも自分の一部だと感じていた。


 そして、次の瞬間――


 少年の視界は一面の白に包まれ、夢は静かに途切れた。




 「……ん、ここは?」


 目を覚ました少年は、見慣れない天井を見つめた。古びた木の梁がところどころひび割れている。


 「また、あの夢か……」


 少年はゆっくりと起き上がった。寝台の脇には水差しと欠けた陶器の杯。窓から差し込む光はまだ薄暗く、朝の訪れを感じさせる。


 夢の中の二つの光――銀と金。それは彼の中に宿る双魂の象徴だった。


 「黙っていたって無駄だ。どうせまた話しかけてくるんだろ?」


 少年がそう呟いた瞬間、頭の奥から声が響いた。


 『お前はもっと慎重に考えるべきだ。己を律しなければ、この旅の意味を見失うぞ』


 低く落ち着いた声。それは銀の魂の言葉だった。


 すると、次に弾けるような声が続く。


 『バカバカしい!考える暇があるなら、動けばいいのさ!お前の力がどれほどのものか、試してみるチャンスだろ?』


 力強く、情熱的な金の魂の声。


 彼らの声は常に少年の中で響いていた。迷うたび、怒るたび、笑うたび――二つの魂は異なる言葉を投げかける。


 「どっちの言うことも聞いてられないよ……」


 少年は軽く頭を振り、声を振り払った。




 その日、少年は奇妙な感覚に包まれていた。


 まるで、遠くから何かに呼ばれているような――胸の奥に響く声。


 『来て。私を見つけて』


 都市の精霊だ。


 滅びかけた都市に宿る精霊は、最後の力を振り絞って少年を呼んでいる。


 「……やっぱり、行くしかないか」


 銀の魂が静かに囁く。


 『あの都市の声が聞こえるのなら、お前が向かうべきなのだろう』


 一方で、金の魂は興奮を隠せない。


 『面白いじゃないか!滅びかけた都市を救うなんて、まさに英雄の役目だろ!』


 少年は胸に手を当て、二つの魂の鼓動を感じた。


 「俺にできることがあるなら……やってみるしかない」


 そう呟くと、彼は荷物をまとめ、静かに扉を開け放った。


 乾いた風が吹き抜け、彼の背を押した。


 失われた都市の精霊が待つ場所へと、少年の旅は始まる。

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魂が呼び合うとき、都市は生まれ変わる まさか からだ @panndamann74

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