魂が呼び合うとき、都市は生まれ変わる
まさか からだ
第1話 双魂の誕生
この世界では、生命の誕生は「双魂の融合」によって起こる。二つの魂が巡り合い、結びつくことで、はじめて新たな命が宿るのだ。これは人間だけでなく、都市や文明にまで影響を及ぼす理。その法則のもとに、無数の命が生まれ、世界は形作られてきた。
大地の裂け目から湧き出る蒼き霧――それはまだ形を持たぬ魂たちの集合体。魂は単独では存在を維持できず、対となる魂を求めて彷徨う。そして、共鳴する相手を見つけたとき、光の粒子となり、ひとつの存在として生を受ける。
だが、すべての魂が幸福な結びつきを迎えるわけではない。融合の過程で均衡を崩した魂は、暴走し、やがて消滅してしまう。もしくは、不完全な融合を遂げ、どちらか一方の影響を強く受けすぎた「片割れ」として、この世に生まれることもある。
それでも、この世界は双魂によって繁栄し、文明は息づいてきた。大地に根を下ろした都市もまた、かつて双魂が生み出した存在なのだから。
大昔、双魂の力を最も強く宿した者たちがいた。彼らは「ヘルメスの末裔」と呼ばれ、異なる文化や種族の橋渡しをする存在だった。
伝説によれば、最初のヘルメスは光と闇、風と大地の双魂を持ち、それぞれ異なる役割を果たしながらも、調和を保っていた。光のヘルメスは新たな知識を生み出し、大地に刻みつける。闇のヘルメスは過去の知恵を受け継ぎ、歴史を守る。彼らは時に相反しながらも、決して決裂することはなかった。
ヘルメスの末裔たちは、その資質を受け継ぎ、都市を巡りながら文化や技術を交換し、文明を発展させた。彼らが訪れる場所には活気が生まれ、交易は盛んになり、都市は繁栄を極めたという。
だが、すべての双魂が調和を保てるわけではない。ヘルメスの末裔の中には、片方の魂が暴走し、都市を滅ぼした者もいた。そのため、人々は彼らを畏れ、敬いながらも、慎重に接するようになった。
時は流れ、現代。双魂の力は薄れつつあるが、それでも稀に、特別な魂を持つ者が生まれる。彼らは自身の魂の在り方に戸惑いながらも、何かに導かれるように旅に出るのだった。
人が生きる土地には、都市の精霊が宿る。彼らは都市そのものの意志を持ち、そこに住まう者たちを見守る存在だ。
都市が栄えれば、精霊もまた輝きを増す。都市が衰退すれば、精霊もまた弱り、やがて消えてしまう。だからこそ、精霊は双魂の者たちの行く末を注視する。彼らの魂の調和が崩れるとき、都市そのものが危機に陥るからだ。
――ある滅びかけた都市に、ひとりの少年が訪れた。
彼の中には、二つの魂が宿っていた。一方は冷静で理性的な魂、もう一方は情熱的で感情に突き動かされる魂。その二つの声に翻弄されながらも、彼はここに導かれた。
「……助けを求める声が聞こえたんだ」
少年は都市の中心に立つ朽ち果てた塔を見上げた。その頂には、都市の精霊が眠っているはずだった。
「この都市が滅びかけている理由を、探らないと」
彼の旅は、ここから始まる。
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