第3話 訓練
「知っての通り、
ルシアの執務室で“
男の名はリオン・カウセル。
第三近衛隊に所属する騎士の一人であり、前日からアストレイに騎士団に関する様々な知識を教えてくれている人物だ。
男性としては平均的な身長のアストレイと比べても頭2個分高い背丈に、全身を覆う分厚い筋肉の鎧。
右目には一本の切り傷が刻まれており、小さな子供が見たら泣き出してしまいそうな風貌をしている。
「第三近衛隊ではルシアの加護を柱として作戦を立案・遂行している。例えば、敵拠点の制圧であればローゼンが自身の加護で偵察を行い作戦を立案、ルシアの加護によって武装した隊員が作戦を実行するといった形だ。ただ、昨日紹介したように隊員の数はアストを含めて10人。人手は足りていないから、隊員一人一人が頑張る必要がある」
一日関わったアストレイから見たリオンの印象は“優しい熊”である。
重低音の声によって紡がれる優しく気づかいに満ちた言葉の数々。
アストレイのことをアストと呼び、隊になじめるように他の隊員と引き合わせてくれたのもリオンである。
今日もリオン自身は休息日であるにも関わらず、アストレイの訓練に付き合うためにこうして時間を作ってくれていた。
「さて、そろそろルシアが来ると思うんだが……そういえば、昨日ルシアからいたずらを受けなかったか?」
「あぁ…受けました」
「やはりか…悪いな。あの子は幼い部分があるというか、いたずらが好きというか。戦場や式典の場では猫を被って大人しくしているのだが、第三近衛隊内ではよく隊員にいたずらを仕掛けるんだ」
「そうだったんですね」
猫を被るというリオンの発言で昨日のルシアの最初の態度――感情の読み取れない微笑みがアストレイの脳内で思い出される。
凛とした美貌も相まってまさしく『戦乙女』と呼ばれるにふさわしい印象を受けたものだが、その後の素の態度を見るとどんな化け猫を被っているのかと言いたくもなる。
「アスト、もし君がよければルシアの相手をしてやってくれないか。過酷な戦場に身を置くにはどこかで息抜きをする必要がある。年の近い者だからこそ築ける関係がルシアには必要で、そして君にも必要だと思うんだ」
準備運動を中断して真剣なまなざしをこちらに向けるリオンの姿に、アストレイはルシアへと向けられる愛情の一端を感じ取る。
「任せてください!僕にとってルシアさんは憧れの存在ですし、いたずらでもなんでも、お話しできること自体がとてもうれしいので!」
屈託のない笑みを浮かべるアストレイにリオンは一瞬目を見開き、次いでやさしげな笑みを浮かべる。
「ありがとう、アスト」
「いえいえそんな――」
「おっまたせー!!!」
感謝の言葉に両手を振って恐縮していたアストレイの耳に活力に満ちた声が飛び込んできた。
噂をすればとばかりに振り向くと、黒髪を揺らしながらこちらに走ってくる
「あれ、リオン?どうしたの?」
「アストの相手になろうと思ってな。実戦を想定するなら相手がいた方がやりやすいだろう?何より戦場で肩を並べる仲間の実力を把握しておきたい」
「そうなんだ!ありがとね!」
頭三つ分は背丈が異なるリオンとルシアが並ぶと、リオンの顔を見るためにルシアは大きく上を向く構図となり、親子のような微笑ましさがある。
ルシアがリオンを含めた隊員達に信頼しきった笑顔を向けるのも相まって、尚更第三近衛隊は一つの家族のような雰囲気がある。
アストレイはそこに馴染めるであろうかとやや不安に思わないわけではないが、非常に居心地の良い空間であることはこの一日を通じて既によく知るところであった。
「では、アスト!今日は私とリオンと三人で、私の加護を用いた実践訓練を行います!」
「はい!よろしくお願いします!」
「うむ!良い返事だ!では早速…」
パチンと指が鳴り、ルシアの目の前に銀の剣と盾が出現する。
銀剣は昨日見たのと同様に装飾が施された美しいものだが、銀の盾もまた表面に美しい装飾が施されている。
「アストは剣で、リオンは盾ね。二人とも加護を使っていいから、思いっきりやっちゃって!」
「了解」
「わかりました!」
アストレイは銀剣の前に立つと意識を自身の加護へと向ける。
月神により与えられたアストレイの加護【
騎士養成所で行った加護授与式で月神に資質を認められ、加護を授かって一カ月。
初めは手首より先を覆う手甲しか召喚できなかったが加護が徐々に体に馴染み、習熟度も高めることで肘までを覆う籠手を召喚できるようになった。
また、武具召喚に伴って発動する身体能力強化の効果は召喚できる武具の量によって変動するようで、肘までの籠手を召喚できるようになった今の強化具合は一カ月前と比べ大きく向上している。
そんなアストレイでも集中しなければ体勢を崩す重さということで、ルシアの銀剣の異常性は際立つのだが。
「【
アストレイの影が波打ち、黒く変色し、やや伸長する。
神の加護が施された影から飛び出してくるのはやがて武具に化ける白い物体だ。
今回も迷いなく右腕に飛んだそれは一瞬で籠手に変わり、アストレイの手先から肘までを覆った。
「ローゼンから話を聞いていたが、防御力向上と身体能力強化を兼ねる加護か。確かに、ルシアの加護による武装と相性がいい」
簡素な装飾が施された純白の籠手を装備し、銀剣を構えるアストレイに相対するのは、全身に燐光を纏ったリオン。
熟練の
「僕の加護【
「よろしくお願いします…!」
優しげな雰囲気から一転。
鳥肌が立つほどの圧を放つリオンを前に、剣を構えたアストレイは冷や汗を流す。
「では、始め!」
こちらも真面目な態度に変わったルシアが高く掲げた手を振り下ろす。
開戦の合図に機に、リオンの圧はさらに膨れ上がる。
騎士養成所で行ってきた組手が児戯に思えるほど、明確な戦意と圧を受けてアストレイは踏み込みを一瞬躊躇する。
その一瞬で、リオンはアストレイの目前に迫った。
「うがっ!!」
宙を舞うアストレイの目に映るのは今まで自分が立っていた場所でこちらに盾を突き出した姿勢で止まるリオンの姿。
リオンが行ったのはシールドバッシュ。
脚力で生み出した推進力を盾を通してアストレイに伝えるだけのシンプルな力技だ。
しかし、身体能力強化が施された巨体が生み出す推進力は圧倒的で、アストレイが右手の籠手でガードしなければ骨の1本や2本折れていてもおかしくない威力であった。
「アスト、かかってきなさい」
「はい!」
地面に着地し、右腕のジーンとしびれるような感覚を振り払うと、銀剣を握りなおして今度こそ一歩踏み込む。
「シッ!」
吹き飛ばされた距離を一息に詰め、その推進力を剣に乗せて振り下ろす。
金属同士がぶつかる激しい衝突音が響くも、リオンの構えは崩れない。
むしろ、盾で剣をいなされ、アストレイの体が泳がされる。
「まだまだ!」
しかし、騎士養成所の養成課程で鍛えられたアストレイの攻撃は一度防がれようと止まるものではない。
若さゆえの体力を活かした連続攻撃を畳みかける。
(悪くない、いや、3年に養成課程を短縮したことを考えれば非常に優秀といえる)
全ての攻撃を防ぎ、いなし、時折隙を見てはシールドバッシュで反撃を行いながら、リオンはアストレイの実力を冷静に分析する。
よく研鑽された剣筋に、強化された身体能力を扱うだけの体力、不意に襲うシールドバッシュにも対処する視野の広さ。
無論甘い部分もあるが、概して言えば非常に優秀であるといえる。
(それだけに、正規の養成課程を踏めなかったことが悔やまれる。次の作戦までに加護を中心に鍛えられるだけ鍛えなければ…)
養成期間を短縮したにしては優秀。
だからといって、戦場で生き残れるかといえば話は別だ。
敵はこちらの事情を加味して加減をしてくれるわけではない。
加えて、第三近衛隊は月の騎士団の中でも屈指の少人数かつ過酷な作戦を行う部隊だ。
少数精鋭といえば聞こえは良いが、迅速に作戦を遂行するために必要最小限の人数で任務にあたる第三近衛隊は、隊員一人一人にかかる負荷が大きく、落命のリスクも他部隊に比べて大きい。
(うちの作戦内容を考えれば熟練の騎士を入隊させたいところだが、今はどこも人員に余裕がない。加護の適性に加え、ルシアの精神的な支えとなることも期待して同年代の
滝のような汗を流しながらかれこれ5分以上剣を振り続けるアストレイ。
体勢が崩れ、隙が増えている
地面を転がり、ふらつきながら立ち上がるアストレイの姿は彼の体力が限界に近いことを示していた。
「ルシア、一度休憩にしよう」
「そうね、二人ともお疲れ様」
「は、はい」
どしゃ、という音でも聞こえてきそうな形で座り込むアストレイにルシアが水筒を差し出す。
「はぁはぁ、ありがとう、ございます…」
ゴクゴクと音が聞こえてくるいい飲みっぷりで、一瞬で水筒を空にしたアストレイは「はー、生き返るー」と言いながら寝転がる。
自身もルシアから手渡された水筒で水分補給をしつつ、寝転がるアストレイの方に目をやったリオンはしっとりと濡れた訓練着に浮かぶアストレイの筋肉を確認する。
今年18歳を迎える成長途上の身であるにも関わらず、鍛え抜かれた彼の肉体は美しい。
まだ幼さを残す顔立ちは整っており、異性からの人気も強いであろう、なんてことを考えながら、リオンはちらりとルシアに目をやる。
(我々からするとルシアは娘のような存在だったが、アストからすると年齢の近い女性だ。もしアストに、そしてルシアにその気があれば、ひょっとしたらひょっとするのか?)
第三近衛隊はルシアとアストレイを除けば全員が既婚者かつ30歳前後の男性。
加えて、ルシアが入隊してからはほとんど休むことなく戦場にいたため、今までルシアからそういった話題は出てこなかった。
ルシアは今年で20歳。
騎士団入隊後、約一年間という短い期間で数々の武勲を立てた優秀な騎士であるが、色恋に興味があってしかるべき年齢だ。
(…いや、少なくとも今はないか)
油断しているアストレイを見て、今にもいたずらを仕掛けてやろうと目をキラキラさせているルシアの姿に、一瞬浮かんだ可能性を棄却する。
アストレイにルシアの相手をしてやってほしいとは頼んだが、今ばかりは息を整えるアストレイの邪魔をさせないように、ルシアの訓練着の襟をむんずと掴み、持ち上げる。
「あー!何するの、リオン!」
「僕は君の将来が心配だよ」
「どういうこと!?」
ギャーギャー騒ぐ
ルシアの執務室で“
男の名はリオン・カウセル。
第三近衛隊に所属する騎士の一人であり、前日からアストレイに騎士団に関する様々な知識を教えてくれている人物だ。
男性としては平均的な身長のアストレイと比べても頭2個分高い背丈に、全身を覆う分厚い筋肉の鎧。
右目には一本の切り傷が刻まれており、小さな子供が見たら泣き出してしまいそうな風貌をしている。
「第三近衛隊ではルシアの加護を柱として作戦を立案・遂行している。例えば、敵拠点の制圧であればローゼンが自身の加護で偵察を行い作戦を立案、ルシアの加護によって武装した隊員が作戦を実行するといった形だ。ただ、昨日紹介したように隊員の数はアストを含めて10人。人手は足りていないから、隊員一人一人が頑張る必要がある」
一日関わったアストレイから見たリオンの印象は“優しい熊”である。
重低音の声によって紡がれる優しく気づかいに満ちた言葉の数々。
アストレイのことをアストと呼び、隊になじめるように他の隊員と引き合わせてくれたのもリオンである。
今日もリオン自身は休息日であるにも関わらず、アストレイの訓練に付き合うためにこうして時間を作ってくれていた。
「さて、そろそろルシアが来ると思うんだが……そういえば、昨日ルシアからいたずらを受けなかったか?」
「あぁ…受けました」
「やはりか…悪いな。あの子は幼い部分があるというか、いたずらが好きというか。戦場や式典の場では猫を被って大人しくしているのだが、第三近衛隊内ではよく隊員にいたずらを仕掛けるんだ」
「そうだったんですね」
猫を被るというリオンの発言で昨日のルシアの最初の態度――感情の読み取れない微笑みがアストレイの脳内で思い出される。
凛とした美貌も相まってまさしく『戦乙女』と呼ばれるにふさわしい印象を受けたものだが、その後の素の態度を見るとどんな化け猫を被っているのかと言いたくもなる。
「アスト、もし君がよければルシアの相手をしてやってくれないか。過酷な戦場に身を置くにはどこかで息抜きをする必要がある。年の近い者だからこそ築ける関係がルシアには必要で、そして君にも必要だと思うんだ」
準備運動を中断して真剣なまなざしをこちらに向けるリオンの姿に、アストレイはルシアへと向けられる愛情の一端を感じ取る。
「任せてください!僕にとってルシアさんは憧れの存在ですし、いたずらでもなんでも、お話しできること自体がとてもうれしいので!」
屈託のない笑みを浮かべるアストレイにリオンは一瞬目を見開き、次いでやさしげな笑みを浮かべる。
「ありがとう、アスト」
「いえいえそんな――」
「おっまたせー!!!」
感謝の言葉に両手を振って恐縮していたアストレイの耳に活力に満ちた声が飛び込んできた。
噂をすればとばかりに振り向くと、黒髪を揺らしながらこちらに走ってくる
「あれ、リオン?どうしたの?」
「アストの相手になろうと思ってな。実戦を想定するなら相手がいた方がやりやすいだろう?何より戦場で肩を並べる仲間の実力を把握しておきたい」
「そうなんだ!ありがとね!」
頭三つ分は背丈が異なるリオンとルシアが並ぶと、リオンの顔を見るためにルシアは大きく上を向く構図となり、親子のような微笑ましさがある。
ルシアがリオンを含めた隊員達に信頼しきった笑顔を向けるのも相まって、尚更第三近衛隊は一つの家族のような雰囲気がある。
アストレイはそこに馴染めるであろうかとやや不安に思わないわけではないが、非常に居心地の良い空間であることはこの一日を通じて既によく知るところであった。
「では、アスト!今日は私とリオンと三人で、私の加護を用いた実践訓練を行います!」
「はい!よろしくお願いします!」
「うむ!良い返事だ!では早速…」
パチンと指が鳴り、ルシアの目の前に銀の剣と盾が出現する。
銀剣は昨日見たのと同様に装飾が施された美しいものだが、銀の盾もまた表面に美しい装飾が施されている。
「アストは剣で、リオンは盾ね。二人とも加護を使っていいから、思いっきりやっちゃって!」
「了解」
「わかりました!」
アストレイは銀剣の前に立つと意識を自身の加護へと向ける。
月神により与えられたアストレイの加護【
騎士養成所で行った加護授与式で月神に資質を認められ、加護を授かって一カ月。
初めは手首より先を覆う手甲しか召喚できなかったが加護が徐々に体に馴染み、習熟度も高めることで肘までを覆う籠手を召喚できるようになった。
また、武具召喚に伴って発動する身体能力強化の効果は召喚できる武具の量によって変動するようで、肘までの籠手を召喚できるようになった今の強化具合は一カ月前と比べ大きく向上している。
そんなアストレイでも集中しなければ体勢を崩す重さということで、ルシアの銀剣の異常性は際立つのだが。
「【
アストレイの影が波打ち、黒く変色し、やや伸長する。
神の加護が施された影から飛び出してくるのはやがて武具に化ける白い物体だ。
今回も迷いなく右腕に飛んだそれは一瞬で籠手に変わり、アストレイの手先から肘までを覆った。
「ローゼンから話を聞いていたが、防御力向上と身体能力強化を兼ねる加護か。確かに、ルシアの加護による武装と相性がいい」
簡素な装飾が施された純白の籠手を装備し、銀剣を構えるアストレイに相対するのは、全身に燐光を纏ったリオン。
熟練の
「僕の加護【
「よろしくお願いします…!」
優しげな雰囲気から一転。
鳥肌が立つほどの圧を放つリオンを前に、剣を構えたアストレイは冷や汗を流す。
「では、始め!」
こちらも真面目な態度に変わったルシアが高く掲げた手を振り下ろす。
開戦の合図に機に、リオンの圧はさらに膨れ上がる。
騎士養成所で行ってきた組手が児戯に思えるほど、明確な戦意と圧を受けてアストレイは踏み込みを一瞬躊躇する。
その一瞬で、リオンはアストレイの目前に迫った。
「うがっ!!」
宙を舞うアストレイの目に映るのは今まで自分が立っていた場所でこちらに盾を突き出した姿勢で止まるリオンの姿。
リオンが行ったのはシールドバッシュ。
脚力で生み出した推進力を盾を通してアストレイに伝えるだけのシンプルな力技だ。
しかし、身体能力強化が施された巨体が生み出す推進力は圧倒的で、アストレイが右手の籠手でガードしなければ骨の1本や2本折れていてもおかしくない威力であった。
「アスト、かかってきなさい」
「はい!」
地面に着地し、右腕のジーンとしびれるような感覚を振り払うと、銀剣を握りなおして今度こそ一歩踏み込む。
「シッ!」
吹き飛ばされた距離を一息に詰め、その推進力を剣に乗せて振り下ろす。
金属同士がぶつかる激しい衝突音が響くも、リオンの構えは崩れない。
むしろ、盾で剣をいなされ、アストレイの体が泳がされる。
「まだまだ!」
しかし、騎士養成所の養成課程で鍛えられたアストレイの攻撃は一度防がれようと止まるものではない。
若さゆえの体力を活かした連続攻撃を畳みかける。
(悪くない、いや、3年に養成課程を短縮したことを考えれば非常に優秀といえる)
全ての攻撃を防ぎ、いなし、時折隙を見てはシールドバッシュで反撃を行いながら、リオンはアストレイの実力を冷静に分析する。
よく研鑽された剣筋に、強化された身体能力を扱うだけの体力、不意に襲うシールドバッシュにも対処する視野の広さ。
無論甘い部分もあるが、概して言えば非常に優秀であるといえる。
(それだけに、正規の養成課程を踏めなかったことが悔やまれる。次の作戦までに加護を中心に鍛えられるだけ鍛えなければ…)
養成期間を短縮したにしては優秀。
だからといって、戦場で生き残れるかといえば話は別だ。
敵はこちらの事情を加味して加減をしてくれるわけではない。
加えて、第三近衛隊は月の騎士団の中でも屈指の少人数かつ過酷な作戦を行う部隊だ。
少数精鋭といえば聞こえは良いが、迅速に作戦を遂行するために必要最小限の人数で任務にあたる第三近衛隊は、隊員一人一人にかかる負荷が大きく、落命のリスクも他部隊に比べて大きい。
(うちの作戦内容を考えれば熟練の騎士を入隊させたいところだが、今はどこも人員に余裕がない。加護の適性に加え、ルシアの精神的な支えとなることも期待して同年代の
滝のような汗を流しながらかれこれ5分以上剣を振り続けるアストレイ。
体勢が崩れ、隙が増えている
地面を転がり、ふらつきながら立ち上がるアストレイの姿は彼の体力が限界に近いことを示していた。
「ルシア、一度休憩にしよう」
「そうね、二人ともお疲れ様」
「は、はい」
どしゃ、という音でも聞こえてきそうな形で座り込むアストレイにルシアが水筒を差し出す。
「はぁはぁ、ありがとう、ございます…」
ゴクゴクと音が聞こえてくるいい飲みっぷりで、一瞬で水筒を空にしたアストレイは「はー、生き返るー」と言いながら寝転がる。
自身もルシアから手渡された水筒で水分補給をしつつ、寝転がるアストレイの方に目をやったリオンはしっとりと濡れた訓練着に浮かぶアストレイの筋肉を確認する。
今年18歳を迎える成長途上の身であるにも関わらず、鍛え抜かれた彼の肉体は美しい。
まだ幼さを残す顔立ちは整っており、異性からの人気も強いであろう、なんてことを考えながら、リオンはちらりとルシアに目をやる。
(我々からするとルシアは娘のような存在だったが、アストからすると年齢の近い女性だ。もしアストに、そしてルシアにその気があれば、ひょっとしたらひょっとするのか?)
第三近衛隊はルシアとアストレイを除けば全員が既婚者かつ30歳前後の男性。
加えて、ルシアが入隊してからはほとんど休むことなく戦場にいたため、今までルシアからそういった話題は出てこなかった。
ルシアは今年で20歳。
騎士団入隊後、約一年間という短い期間で数々の武勲を立てた優秀な騎士であるが、色恋に興味があってしかるべき年齢だ。
(…いや、少なくとも今はないか)
油断しているアストレイを見て、今にもいたずらを仕掛けてやろうと目をキラキラさせているルシアの姿に、一瞬浮かんだ可能性を棄却する。
アストレイにルシアの相手をしてやってほしいとは頼んだが、今ばかりは息を整えるアストレイの邪魔をさせないように、ルシアの訓練着の襟をむんずと掴み、持ち上げる。
「あー!何するの、リオン!」
「僕は君の将来が心配だよ」
「どういうこと!?」
ギャーギャー騒ぐ
毎度親子漫才が繰り広げられる休憩を何度か挟みつつ、アストレイの体力を限界まで追い込むリオンとの訓練は昼過ぎまで続いた。
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