第4話 成長日誌

 新人騎士であるアストレイ・シルバ(以下、アストとする)を第三近衛隊に迎えるにあたり、騎士団本部に滞在する隊員が持ち回りで稽古をつけることとなった。

 訓練によるアストの成長を各隊員が確認、共有することを目的として日誌をつける。

 訓練を担当した隊員は忘れずに記入すること。


 ○訓練初日(リオン)

 訓練初日の今日はルシアの加護を用いた模擬戦を行った。

 養成所における養成課程が3年に短縮されたこと、加護を授与して1カ月であるということを踏まえれば非常に優秀であると感じた。

 基礎的な戦闘技術は身についていると判断して良いだろう。


 一方で、加護を用いた戦闘となると課題が多い。

 加護の習熟度という点もそうだが、加護を活用した戦闘方法がまだ身についていない。

 今後はルシアの加護を用いた訓練と同時に、アスト自身の加護の習熟、訓練を行う必要があると思われる。


 ○訓練2日目(ルシア)

 今日の日誌は私が担当するよ!

 今日の訓練ではアスト自身の加護の訓練を行いました!

 アストの加護【白狼の霊装】は彼自身の影から武具を召喚する能力と、身体能力を強化する能力があります!

 ローゼンの分析とアストから聞いた話によると、召喚できる武具の数は加護の習熟度によって変化するみたいで、召喚できる武具が増えれば防御力向上が狙えるのと、身体能力の強化具合も武具の量に比例して大きくなるらしく、良いこと尽くめ!


 武具の召喚は私の加護と似ている部分が大きいので、私の訓練をもとにした練習方法を試してもらいました!

 数日試してもらって、効果がなければまた新しい方法を試してみようと思います!



 ○訓練10日目(リオン)

 今日で訓練10日目、アストが入隊してからだと2週間となる。

 アストは加護の習熟度を順調に高めている。

 本日時点で、アストが召喚・装備できる防具の範囲は右腕全体に広がり、加護発動時のアストの身体能力は入隊時以上に強化されるようになった。


 本人曰く、ルシアの訓練方法で加護を扱う感覚が掴めたそうだ。

 やはり、加護の習熟には同系統の加護をもつ先達から学ぶことが近道らしい。


 一方で、加護を用いた戦闘方法の習得には苦労しているようだ。

 見たところ、加護により強化された身体能力に本人の感覚が追いついていない。


 加護発動時、本人が想定する動きと実際の動きに不一致が生じ、このために動きに無駄や躊躇が生じている。

 今後は加護の習熟度を高めつつ、模擬戦の時間を増やしてアストの戦闘感覚を調整していく必要があるだろう。



 ○訓練20日目(ローゼン)

 日誌に申し送られている通り、加護の習熟は順調ながら戦闘技術に難ありといったところ。

 煮詰まっているように思えたので、本日は趣向を変えて魔力操作の訓練を行った。


 改めて記すまでもないことだが、魔力とは生命力であり、これを用いることで人は神の御業を模倣することが許される。

 神の御業の模倣、いわゆる魔法の巧拙には大きく二つの要因がかかわってくる。

 それが魔力量と魔力操作技術だ。


 前者の魔力量には個人差と、生涯を通じた量の変化がある。

 生命力である魔力の量は活力とも言い換えることができ、肉体の盛衰にともなって変化するため、今年で18歳を迎えるアストの魔力は現在ほぼ全盛といえる。

 そして本日、アストの魔力量を測定したところ、一般人よりは優れているが騎士の水準にはかなり劣るといったところだった。


 現在でこの魔力量ということは、養成所時代は更に魔力量が少なかっただろう。

 本人に確認したところ自覚もあり、養成所では魔力量の制限から魔法の鍛錬はあまりできず、とりわけ、魔力の消費量が大きい身体能力強化などの魔法は教官から使用を控えるよう言われていたらしい。

 魔力の使い過ぎは死に直結する危険な行為であるから、教官の判断は妥当であろう。

 だが、アストが身体能力を強化した状態で行う戦闘を不得手とする原因がここにあるように思われる。


 第三近衛隊の隊員を含め、騎士の多くは養成所時代から魔法による身体能力強化を日常的に使い、自身の動きと感覚を一致させていく。

 一方で、魔力による身体能力強化の経験が浅いアストは、普通の騎士が数年かけて行う訓練を受けていない状態といえる。

 この状態では、いくら模擬戦を行ってもなかなか上達しないであろう。

 養成所の生徒に一から魔力操作と身体操作を教えるような感覚で稽古をつけるのが良いと思われる。



 ○訓練30日目(リオン)

 アストの魔力関連の事実が発覚してから本日で10日目の訓練だ。

 各隊員が各々養成所時代に取り組んでいた鍛錬方法を伝授したことが功を奏したのか、アストの抱える課題に改善の兆しが見え始めた。


 本日はアストの加護を制限した状態、具体的には召喚する防具を肘までの籠手とし、身体能力強化を制限した状態で模擬戦を行ったが、この状態では動きと感覚の不一致は戦場でも戦える程度の範疇に収まっていたように思う。

 内容を身体能力強化に絞ってほぼ毎日訓練しているとはいえ、非常に目覚ましい成長を遂げている。


 魔法は神の御業の模倣に過ぎないと言われる所以ではあるが、術者の生命力、活力を消費して発動する魔法には、魔力量による制限や、魔力の使い過ぎによる死のリスクがある。

 時間がたてば消費した魔力は回復するとはいえ、これらの制限やリスクは無視しえないもので、特に養成所の生徒などは死のリスクと聞くと怖がって残存魔力に大きく余力を残した状態で訓練をやめる場合も多い。


 一方で、術者が保有する魔力の代わりに周囲の物質に宿る神力を用いて能力を発動する加護の場合は、術者に制限やリスクがほとんど存在しない。

 周囲から神力を吸い上げて消費するため、周囲の神力が尽きれば加護は発動できなくなるという制約はあるが、月神様の聖域であり神力が満ちているルゼリアで訓練する限りは考えなくて良いものだ。


 加護の特性と聖域という立地条件により、結果として、アストは一般的な騎士養成所の生徒と比べ、一日当たりでも数倍の時間を身体能力強化の訓練に用いることができている。

 これが10日間も続けば今回の成長も納得できるというもの。

 あと半月ほどでアストが入隊して2カ月だが、そろそろ彼の任務への参加を考えても良い頃合いかもしれない。



 ○訓練40日目(ルシア)

 今日でアストが入隊して大体2カ月!

 ついに明日はアストの初任務の日です!

 

 この二ヵ月をざっと振り返ると、アストの加護は両腕の手先から肩まで覆う鎧を召喚できるようになり、身体能力強化もかなり強くなりました!

 苦労していた感覚の問題もかなり改善していて、リオン曰く片腕の鎧召喚までの身体能力強化なら使いこなせているとのことです!


 改めて、明日はアストの初任務。

 アストも含め、みんな無事に帰ってこようね。

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ケモノ大戦 雪兎 @yuki_yama

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