付喪神商工会議所
サーキュレーター
付喪神商工会議所のじゃれ合い
日本には長い期間使われた道具に魂が宿り、付喪神となると信じられている。
ここ山形市の九日町商店街、焼き鳥屋『トリの降臨』の3階は元々骨董店が入っていた場所だ。今は廃業し、商店街が共有で使っている倉庫になっていた。
そこでは、人知れず付喪神たちが『九日町付喪神商工会議所』を設立、夜な夜な会議を……いや、ただのじゃれ合いを開いている。
会長は戦国時代、天下無双の武将として名を轟かせた本多忠勝が最強の槍、蜻蛉切りの予備として使っていたとされる『ガガンボ切り』が務めている。
「さぁて、今夜の議題だがな……いんばうんど客なる、黒船でやって来るらしいお客人たちをどうやってもてなすか、話そうぞ」
しかし、会に参加するメンバーは会長の話をほとんど聞いていない。そればかりか、副会長の桐ダンスは、腹の中ではずっと会長の経歴を疑っていた(およそ30年間)。
「会長さんよぉ、俺たちの会も今年で創立100年だ。だからよぉ、いい機会じゃねぇかな、と俺は思うんだ……」
「おぬし、何を言うのじゃ?」
「だからよ、ガガンボ切りなんて槍……本当はウソだろうよ、そんなもんあるわけねぇ、ましてや本多忠勝がそんな間抜けな名前の槍持っているわけねぇだろ?いい加減、白状しろってことだ!」
ガガンボ切りはワナワナと震え、
「き、貴様つ!このわしを愚弄するのか!えぇい!そこへ居直れ、ただちにぶった斬って、板材へ加工してやるわぁ!」
「へっ!俺だって日本舞踊教室の桐ダンスだっ!タンスの華麗なダンスで全て避けてやるわい!」
「日本舞踊はダンスではなかろうがっ!」
「今すぐ止めな!争いは何も生まないよッ!」
二人の争いを止めたのは、高級羽毛布団セットだった。彼女は昭和のころ、強引な訪問販売で1セット50万円で押し売りされたいわく付きの布団だった。
「いいじゃないか、副会長、ガガンボ切りっていう変な槍があったって……さ、それに誰も困りはしないだろ」
「いや、そういう問題じゃあ……」
「例え、本多忠勝さんが持っていたって話がウソだとしても、そいつは優しいウソってことだ。だからさ、ケンカは止めないよ、みっともない」
「そうさな……その通りだ」
「うむ、戦は止めじゃ!」
付喪神商工会議所 サーキュレーター @kyapikyapi
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