ギャルと文化と祭りと

いろは杏⛄️

第五文芸部の日常―第5話:天下無双・ダンス・布団

 太陽が南中を過ぎた頃――いつもであれば授業の開始やら終了やらを知らせるチャイムが鳴り響くはずだけれど、今日は音沙汰がない。

 

 それもそのはずで、今日は文化祭なのだ。今頃は体育館のステージでコントやら漫才やらが開催されている頃だろう。

 体育館に程近いこの第五文芸部の部室にも時折観客の笑い声が響いてくる。

 先ほど一際大きな笑いを生んだのはきっと物理研究会のコンビだろう。『布団が吹っ飛んだ』という一発ギャグのために実際に布団を吹き飛ばす装置を開発していたのを私は知っている。


 そして私が部長を務めるこの第五文芸部でも一応出し物をしている。といっても過去の先輩方が作っていった文芸誌を抜粋してデカデカと掲示しているだけなのだけれど。


 もう1人――唯一の部員である高世むつみさんはこの場にはいない。

 あの国宝級の顔面と他を寄せ付けない天下無双のスタイルを持ってしてクラスの劇の主演女優に抜擢されたためだ。


 いつもは揶揄われてばかりだけれど、いないといないで寂しいものだ。

 そんなことを思いながら私は誰もくることのない部室で店番を続けるのだった。


 ◇


 文化祭が終わり辺りもすっかり暗くなると、グラウンドにてキャンプファイヤー擬きが行われるらしい。なんでも文化祭で使用した木材や諸々を燃やすついでに――ということだ。


 第五文芸部としては特に燃やすものもないし、そのまま帰ろうかと思ったところで部室のドアが思い切り開いた。


「――ぶちょーちゃん!!」

「……わっ、ど、どうしたの?」


 むつみさんのらしくない焦り様に思わず驚く私。彼女はよかったぁ、まだいてくれた――と言って私の手を優しく握る。


「キャンプファイヤー、行こ!」

「え? え?」

「いいから! ほら――」


 そう言って半ば強引に連れ去られる。


 ◇


「ねぇ、むつみさん――どこ行くの?」


 てっきりグラウンドへ向かうと思っていたけれど、彼女は校舎の上へ上へと私を引き連れていく。


よ――」


 そう言ってたどり着いたのは屋上だった。


「うちの高校、屋上なんて立ち入れたんだ……」

「文化祭期間だけね――大きい荷物とか置いとけるんだ――それより、ほら! こっち見て!」


 むつみさんに案内されてそちらを見ると、そこは絶景だった。

 キャンプファイヤーの赤い炎、その周りでダンスする人の黒い影、そして夜空に輝く黄い満月――それら各色が絶妙なバランスで混ざり合っていた。


 だから思わず口から言葉がこぼれ落ちた。


「……炎もだけど――やっぱり月が綺麗だね……」


 するとむつみさんが急接近し、耳元で囁く。


「――死んでもいいわ」

「え――? あっ――今のは――んんっ」


 むつみさんの柔らかいそれによって口を塞がれた私は二の句が告げられなくなる。


「――っぷは――む、むつみさん!?」

「先に想いを伝えてくれたのはぶちょーちゃん。あたしはそれに答えただけ――でも何度でも言うよ、

「それは――」


 2人の影が再び重なる。

 月の黄色も炎の赤も――まるで2人を祝福しているようだった。

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