第29話 結局僕は仕事に何を求めてる?

「そうだ道徳くん、明後日契約更新日になってるから考えておいてね」


「契約更新…ですか?」




一緒にシフトに入っていた数学さんにぺこりと挨拶をして、僕は交代で入る理科さんに引き継ぎをした。裏にはパソコンの画面と睨めっこしていた社会さん。お疲れ様でしたと声をかけると社会さんはにっこりと微笑んでそう言った。




「そう、道徳くんが来月からもこのコンビニで働く意思があるのか、初めの3ヶ月がすぎたところで確認することになってるんだ」




このコンビニでまだ働くのか。その意思確認。どこの企業でも使用期間というものを設けているから至って普通のことだろう。




「このままでいいのかな…」



それは常々頭にはあったことだった。けれど重苦しい課題を解決するのには脳みそのエネルギーだけじゃなく精神的エネルギーも多く使うことが目に見えていたから、僕は日々の忙しさにかまけて見ないふりをしていただけだ。



柄にもなくベランダになんて出て月なんて見上げて、風流めいたことをしているなと思う。国語さんが好きそうな感じ。



このコンビニで働くことになったのはオーナーの“全治三ヶ月”への償いでの成り行き。今思えばオーナーが軽々両手を動かしていることに疑問を抱かなくなったのはいつからだったろうか。騙されたにもかかわらずここで働き続けていたのは甘えか、それとも。




「そりゃぁ正社員を探さなきゃいけないってわかってるけどさ…」



僕は月明かりを視界から消した。









「金。生きるのには金がいるじゃん。死にたかねーしぃ、まだ本読みてぇし。何で?」




聞く相手を間違えたのかもしれない。今日は全員出勤のセール日。明らかに1番暇そうな、というか今日も今日とて本を読んでサボっている国語さんにどうしてここで働くのかと聞いてみたけれど。



「更新日が実は明日でして…正社員にならなきゃいけないのはわかってるんですけど、どうしようかなって。皆さんはどうしてこのコンビニで働き続けてるのか気になったんです」


「1日8時間週5日とか鳥肌通り越してキメラ肌だわぁ俺内臓吐いちゃうかも」


「国語さんの場合冗談でもなさそうなのがアレですね」




1日8時間週5日を想像したのか震え出した国語さんを横目に僕はバックヤードに向かう。



いた、今日も寒い中何ちゃら数列に基づいて綺麗にドリンクを並べている社h…数学さんが。優しい人なのはわかったがやはり今でも怖いは怖い。




「…何?」


「あっすみません数学さん仕事中に…あの、つかぬことをお伺いしますが…数学さんはどうしてこの仕事をしているん、でしょうか…あいや、ほんとすみません仕事中に」




無視されるか、後にしろと言われるか、睨まれるか、どれかかなと今になって怯えるが、あろうことか数学さんは手を止めて僕に向かい合うように立つ。圧があるなほんと。この震えは寒さからのものじゃないぞきっと。





「…まともな仕事につこうと思ッタ」


「え?」



どうやら会話を続けてくれる意思があるようだった。



「人ボコしてた俺にとったらまともな仕事」



うん、確かに数学さんの過去の話を聞く限り、今のこのコンビニバイトは明らかに光属性の仕事だ。



「僕も、前の仕事よりもまともな仕事だなって、素敵な仕事だなって思います。でも…コンビニ店員をずっとやっていたらその、社会的には良くないよなって、」




数秒間お客さんがドリンクを取り出す音だけが僕たちの空間に響いた。





「…誰の満足を得ようとしてルノ?」

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