第28話 社会人になったからこそ、友達って

布団に座りボリボリと頭を掻きながら国語さんが言う。





「お前勝負とかどーでもよかったんだろ、お前はただ、“あの頃”とやらに戻りたかっただけじゃねーのか」


「…!」



どうやら言い返す言葉がないらしい。





「人間ってなァ難しいよなぁ。どれだけ強く願ってても言葉にしないと相手に届きもしねー。だから人は本を書く。手紙を綴る。思いを口ずさむ。そうして繋がってきたんだろ、お前がこのままなら何も変わんねーぞ」




国語さん。だから貴方は時々芯を食うようなことを言う。



美術さんが唇を噛み、理科さんの手を強く握り返した。








「俺は…俺だって本当は、理科くんが隣で笑ってくれるだけでよかった。スリルのあることなんてなくたって…人を不幸にすることが芸術じゃないなんてずっと気付いてた、理科くんと“あの頃”みたいに楽しく遊びたかった…初めてできた友達だと思ってたから…ごめん、ごめんね、ごめん、ごめんなさい…!」




美術さんは理科さんに抱き着いて暫く泣いた。理科さんも俯いていたから、きっと二人の思いはちゃんと、繋がったんだと思う。
















「…で?な、何ですかこれは…」


「え〜〜俺からのスペシャルプレゼントだよ〜!シャイニングフローマートの益々の繁栄を願って♪」




翌日。9時からのシフトに入るため8時45分頃コンビニに行くと、入店早々何とも華々しい絵がいつも正面に見えるおにぎりコーナーの上で僕を出迎えた。固まっていると何故か横に美術さん。そしてそいつをどうにかしろ!とレジの中から息を切らしている国語さん。何だろうカオスの予感しかしない。話を聞けば美術さんから迷惑をかけたシャイニングフローマートへのお詫びの品なんだとか。カラフルな絵の具で彩られたその絵は二人の男の子が仲良く手を繋いでいる。




「これは…美術さんと、理科さん…?」


「わっよくわかったね道徳っち♪」


「道徳っち!?」


「あれは俺と理科くん♪いやぁバレちゃったの恥ずかしいなぁ!理科くんには秘密だよ!」


「いやモロバレだと思いますけどねていうか全然隠す気無いと思いますけどね寧ろ。ところでどうして美術さんがここに…」


「嫌だなぁ道徳っち!俺はこれからこのお店のお客さん!なんだから!よろしく頼むよぉ〜♪」


「あ、そういうことですか」


「おい道徳!そいつ客の身分で勝手に店内に絵飾るし!裏勝手に入って俺のこと叩き起こすし!捕まえろ!つーかそんなん全然芸術じゃねーし!芸術っつーのはもっとこう!墨で!ブワーって書いた!何か!渋いやつなんだよ!」




あぁ、国語さんがちゃんとレジにいるのは美術さんが起こしてくれたのか、とわかる。お客さんに起こされる店員の社不さは置いておいて、美術さんはやっぱりどこか、いや全部ぶっ飛んでるなと思う。今日は確か理科さんとのシフト。もうすぐ理科さんが来るはず。




「おはよう道徳くん!さぁ今日も美しいフライヤーを作ろうか」



と思ったら既に奴はフライヤー室にいて、今日も今日とて油の代わりに薔薇を散らせていた。



「ふふ、理科くんは今日も楽しそうだなぁ♪」




美術さんは笑った。その笑顔にからは昨日までの含みではなく、どこか清々しさを感じる。



「あの、美術さん…僕芸術とか疎くて申し訳ないんですけど…この絵、周りが真っ白じゃないですか、それはあえてなんですか?」




美術さんが描いた二人のにこやかな絵。その周りには白くスペースが残されている。素朴な疑問で僕は美術さんに聞いてみた。



すると美術さんは悪戯な笑顔で笑った。




「ふふ、友達候補の分♪」




よく見ると描かれている美術さんと理科さんは繋いでいない手も横に広げている。まるでこれから誰かとも繋がれるような。




「あの頃商店街に産み落とした絵は完成しなかったけど…この絵は完成させたいって思ってるんだ♪」



美術さんは満足そうに微笑んだ。

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